第380号コラム:舟橋 信 理事
(株式会社セキュリティ工学研究所 取締役)
題:「組織と信頼」

近頃、政府や関連団体などの箍が緩んだかのような、組織の信頼を揺るがす数々の事態が発生している。

日本年金機構からの個人情報流出事案。新国立競技場デザインや五輪エンブレムなどの白紙撤回問題。明治日本の産業革命遺産の世界遺産委員会における「forced to work」の解釈を巡る議論。鬼怒川堤防決壊時の自治体の危機管理能力の欠如などである。リーダーシップ、ガバナンス、コンプライアンスが欠如していることの表れであろうか。

上記のような事態は、当該組織に対する国民からの信頼が損なわれる要因となる。信頼を失った組織は、真に国民に必要な施策や法執行を円滑に実施することが難しくなってくる。

行政に対する信頼に関して、7年前に、行政と市民のリスクコミュニケーションに関するアンケート調査を実施した。調査を依頼したのは597名、回答を頂いたのは252名(43%)であった。

大規模災害等の緊急事態が発生した時、どの機関を信頼するかと言う問に対しては、上位から、消防54%、自治体52%、警察35%であった。また、どの人の言葉を信頼するかと言う問いに対しては、上位から、自治体の長が41%、消防長が36%、知事が31%であった。

自身の生命に直結する身近な機関やその長が選ばれており、頼りにされていることが解る。消防、警察は元々危機管理庁であり、平常時から大規模災害等に対応した訓練なども行われているが、自治体、特に中小の自治体は危機管理担当者も兼務者が多く、専従の職員が不足しているのが実情である。以前から認識されていることであるが、市民の信頼が得られるよう、自治体の危機管理担当者を育成することが肝要である。

緊急時に市民が行政を信用して、実際に行動して頂くには、どのようにコミュニケーションを図ればよいのかと言う質問に対しては、平常時から信頼関係を構築することが52%、事実を隠さずに開示することが51%であった。新国立競技場のコンペや五輪エンブレム公募などに当てはめれば、公平性、透明性を確保することであろうか。更に、フォレンジック的に意思決定過程を記録し、情報開示請求がなされた際には、墨塗りなしで対応すべきであろう。

【著作権は、舟橋氏に属します】