第474号コラム:丸山 満彦 監事
(デロイト トーマツ リスクサービス株式会社 代表取締役社長、公認会計士、公認情報システム監査人)
題:「『デジタル・フォレンジック』という言葉を今更考える」

「『デジタル・フォレンジック』という言葉を今更考える」って、何を言っているのですか?デジタル・フォレンジック研究会(IDF)の設立(平成17年1月)から12年以上たっていますよ。」といわれるのは承知で「今更」考えてみます。でもみなさん、実は「デジタル・フォレンジック」という言葉についてよくわかっていないでしょう(^^)。

まず、「デジタル」。これは英語の“digital”ですね。名詞としても形容詞としても使える言葉です。Wikipediaによるとラテン語の“digitus”(親指以外の手指。英語の“finger”)に由来する言葉のようです。“digitus”は「指」の意味であると同時に指の幅を使った「長さの単位」(1.9cmくらいのようです)として、古代エジプトでは使われていたようですね。“digitus”が、“digit”「整数値」になり、“digtal”つまり数値化又は量子化された状態(名詞)を意味するようになったようです。対語となるのが“analog”ですね。コンピュータの世界では例えば信号としての“0”、“1”が“digital”ということになりますね。

次に「フォレンジック」です。英語では“forensic”ですが、形容詞です。名詞では、“forensics”です。今更ながらですが、「フォレンジックス」と言い直したほうがよさそうです(実は設立当時に気付いていたのですがそのまま進んでしまったようです)。ちなみに発音に関しては英語では“fərénzɪk”、米語では“fərénsɪk”となるようです。米国人が発音しても私には「フォレンジック」に聞こえてしまうのですが。。。この言葉もラテン語由来の言葉のようです。ラテン語の“forens”(古代ローマの公開広場。英語では“forum”)がその語源のようです。形容詞としての“forensic”については、「犯罪科学の」、「法医学の」という意味と「法廷の」という意味があるようです。名詞の“forensics”は、「法医学」、「科学捜査」という意味になるようです。Wikipediaで「法科学」を参照してみると、「公開広場」が「科学捜査」に繋がることについての面白い記述があります。

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ローマ帝国時代、「起訴」とは、ローマ市街の中心にあるフォロ・ロマーノで聴衆を前に訴状を公開することであった。被告と原告はともに自らの主張を行い、よりよい主張をしてより広く受け入れられたものが判決を下すことができた。この起源は、現代における“forensic”という語の2つの用法のもとになっている:
一つ目は、「法的に有効な」という意味、そして2つ目が「公開発表の」という意味である。現状、“forensics”という語を“forensic science”の代わりに用いることは適切とみなされている。なぜなら、単数の“forensic”という語は「法的な」、「法定に関連した」という言葉の同義語とみなされているからである。ただし、今や“forensics”は科学と密接に関連するものと捉えられているため、多くの辞書が“forensics”に“forensic science”すなわち法科学の意味を同時に載せている。
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なるほど、そういう背景があったわけですね。

さて、この二つの言葉をくっつけた、“digital forensic”改め“digital forensics”の意味は、「デジタル化された状態での科学捜査」という感じでしょうか。「捜査」という言葉から「法律に関係する」というニュアンスも伝えられるような気もしますし。

IDFのウェブページではもう少し具体的に掘り下げていますね。

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インシデントレスポンスや法的紛争・訴訟に際し、電磁的記録の証拠保全及び調査・分析を行うとともに、電磁的記録の改ざん・毀損等についての分析・情報収集等を行う一連の科学的調査手法・技術を言います。
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図式化すると次のようになります。

この定義のポイントは「どのような目的のために」ということを定義していないことですね。あくまでも、調査方法、調査技術としている点です。フォレンジックスの目的は会計不正調査目的かもしれませんし、標的型攻撃の被害把握目的かもしれません。どちらであっても、電磁的記録についての調査方法や調査技術に関することであればデジタル・フォレンジックスという範疇に含まれるということです。

さて、最後におさらいです。今回の検討でわかったことは、団体名を「デジタル・フォレンジックス研究会」に変えないといけないかもしれないということですね。

引き続き、IDFをよろしくお願い致します。

【著作権は、丸山氏に属します】