第5号コラム:山口 英 先生(奈良先端科学技術大学院大学 情報科学研究科 教授、内閣官房情報セキュリティ補佐官)
題:「デジタル・フォレンジック研究会へのエール」

 

情報システムが企業活動、行政活動の基盤として広く使われるようになり、業務集積、情報集積が急速に拡大しています。このような状況において、情報システムがどのように動作し、何が起きているかを把握することは、情報システムの運用に責任を持つ者にとっては必要不可欠であることは、言うまでもありません。

 

しかし、最近の情報システム、特に業務で使用される情報システムを考えてみると、取り扱われる情報量、情報システムの規模、利用者数等を勘案すれば、運用状況、動作状況についての正確かつ些細なレベルまでの把握は、日増しに容易なことではなくなりつつあります。個人が使うPCを考えてみても、最近のPC環境は、もはや一人の技術者が人手で把握するレベルを遙かに超え、専用のソフトウェアやツールを使って解析する状況になっていることからも、把握困難な状況になってきていることは明らかであると言えましょう。

 

このような状況で、限られた時間、限られた資源を用いて、的確な解析・解明をする方法論を与えるものが、デジタル・フォレンジック技術(以下DF技術)であるべきです。そして、DF技術が体系化され、属人的な知恵から、学問として移転可能な知見として取り扱われるようになることこそ、学術領域としてDF技術が取り扱われる目的でありましょう。

 

このためには、現在のDF技術を多面的に捉え、技術構成要素を整理し体系化することは必須です。さらに、情報工学等のDF技術の発展に寄与する要素を同定し、その要素を積極的に取り込んでいくことや、法律や保険等といったDF技術の適用によって影響が発生するであろうと予想される領域の専門家達へのアウトリーチ活動も、新たな学問分野が立ち上がっていくときには、必要不可欠な活動であることは言うまでもありません。さらには、DF技術の発展が社会に与えた成果を計測することも忘れてはなりません。

 

新しい学問領域として大きな可能性を持ったDF技術には、情報セキュリティの専門家として大きな期待を寄せています。さらに、多くの技術成果を吸収しながらDF技術が発展していくことで、吸収した技術領域に対して価値あるフィードバックを生み出すことも期待しています。

【著作権は、山口氏に属します】