第507号コラム:佐藤 智晶 幹事
(青山学院大学 法学部 准教授、東京大学公共政策大学院 特任准教授)
題:「データ契約におけるフォレンジック技術のポテンシャル」

本コラムでは、最近注目を集めているいわゆる「データ契約」について、特にフォレンジック技術の利用可能性を検討してみたい。

IoT(※1)やAI等の技術革新によってデータが爆発的に増加するに伴い、事業者間の垣根を超えたデータ連携による新たな付加価値の創出が期待されている。他方で、データの利用権限に関する考え方が明確になっていないが故に、事業者間の契約においてそれを定めることが定着せず、データ流通が進まないという課題があった。そこで、IoT 推進コンソーシアム及び経済産業省は、2017年5月30日に「データの利用権限に関する契約ガイドラインver1.0」を公表している。データ創出への寄与度等に応じた利用権限の設定等、データの利用権限を契約で適正かつ公平に定めるための手法や考え方を整理したガイドラインが策定され、公表に至ったものである。

さらに、2017年12月8日から経済産業省の検討会において、世界に先駆けてデータ契約ガイドライン(案)というものが議論されはじめている(※2)。このガイドラインでは、データの利用権限やAIに関連する責任や権利関係を含む法律問題について主にユースケースをもとに適切な契約のあり方の方向性を示すべく検討されている。具体的にはデータの利用・共用を促すための契約の類型や条件の整理や個別取引の深掘り、ユースケースの充実とともに、新たにAIの法的問題も取り扱うこととしている。

いわゆるデータ契約の締結において留意すべき点は多々あるものの、最も懸念されるのは不正利用や情報流出である。そのため、契約に際しては不正利用や情報流出の防止、不正利用や情報流出が発生した場合の原因究明と必要に応じた範囲での損害賠償、そして不正利用や情報流出を防止するためのさらなる改善策の導入などが論点となりうる。

契約当事者の間で権利義務関係を自由に定め、当該リスクに備えるべきことは言うまでもない。しかしながら、不正利用や情報流出の可能性はリスク(不確実性)の1つであり、当該リスクを予め契約に上手く取り込むことができなければ、契約締結自体が躊躇されてしまうこともあるだろう。

この点、フォレンジック技術を駆使することで不正利用や情報流出を迅速に検知し、改ざんされない形でその記録を残すことができるのならば、リスクは軽減されうるし、契約でリスクをコントロールすることも相当程度可能となろう。

フォレンジック技術の普及は、法的に義務づけられるか否かにかかわらず、少しずつ進行していくものと思われる。フォレンジック技術を前提としたデータ契約が普及するまでには時間がかかるかもしれないが、契約の利益を最大化する見地からは、フォレンジック技術はデータ契約の発展に重要な役割を果たしていくと思われる。

※1 Internet of Things

※2 なお、最初に断らなければならないが、筆者は、現在経済産業省で改訂作業中のガイドラインの検討委員と作業部会の一員でもあるため、このコラムで検討中のガイドラインについて中身を説明することは差し控えたい。また、このコラムは同ガイドラインについて意見を述べるものでもない。ただ、データの流通や利活用の場面において、フォレンジック技術の利用可能性が関連する契約の内容に重大な影響を及ぼしうるという点について、一般論として展開してみたいと思う。

【著作権は、佐藤氏に属します】