第650号コラム:丸山 満彦 監事(PwCコンサルティング合同会社 パートナー)
題:「データを科学的に分析する」

・データを定量的に分析する
新たに分かった東京都のCOIVD-19の感染者が初めて2,000名を超えたというニュースがちょうど流れてきました(2021年01月07日)。2,000名超えと言ってもギリギリの2,000名ではなく、2,447名でした。昨日は1,591名でしたから、一日で850名ほども増えたことになります。検査体制の変化や方針に変更が少ないとしたらかなり大きな変化と言えそうです。2021年はコロナを克服する年にしたいと多くの人が願っている中、これは厳しい幕開けと言えそうです。

色々な判断をする際に皆様はどのような情報を利用するでしょうか?一般的には、適切なデータが示されることにより、適切な判断が行いやすくなりますね。例えば、次の二つの文章を比べてみてください。

例1:東京都の新たに分かったCOVID-19の感染者が今日はすごく多かったです。新たな感染者数は過去最高です。そして新たな感染者数の増え方も過去にない数です。皆様、危機的な状況ということを理解して頂き、感染者の拡大の防止にご協力ください。

例2:東京都の新たに分かったCOVID-19の感染者が2,447名と初めて2,000名を超え、過去最高となりました。昨日の1,591名から約850名の増加です。皆様、危機的な状況ということを理解して頂き、感染者の拡大の防止にご協力ください。

身近な例で比べてみるとよくわかると思います。もちろん、例2の場合でも、継続してデータが提供されていないと比較ができないため判断が難しくなるとは思いますが、例1よりもより的確な状況判断ができそうですね。

このように、何かの判断をする場合にデータを使って定量的に考えることにより、判断の精度をあげることができます。したがって、物事を判断する場合は、できる限り定量的なデータを活用することが重要となります。

昨今、「ビジネスや経営にデータを活用しよう」ということで、ビッグデータを使って機械学習をさせ、経営に活かすという話も欧米に見習ってか、日本でもよく聞くようになりました。判断の精度をあげ、成功確度を上げ、ミスを減らし、ビジネスや経営を成功に導くためにデータの活用に注目が集まっているといえます。

欧米の経営者は昔からできる限りデータを見ながら経営をするのに対し、日本の年配の経営者は勘を重要視して判断している印象があります。実際どちらか一方ではなく、データをなるべく活用しつつ、最後は経営者の勘を働かせて判断するというのが良いのだろうとは思います。

・適切なデータ活用のポイント
適切なデータの活用についての本質的な問題は4点あると思っています。第一は、できる限りデータを活用して判断しようとする姿勢です。第二は、継続的に目的達成に必要となるデータを取得しようと努力をすることです。第三は、データを科学的に分析することです。そして最後は結果を受け入れることです。

それでは順番に概説したいと思います。

1.できる限りデータを活用して判断しようとする姿勢
最初に理解して欲しいことは、①適切な定量データは定性的な情報より判断に資する、②判断に必要なデータを全て定量データにすることは不可能、という2点です。特に経営のような複数次元の情報を高度に分析する場合は、多くのデータは定性的にしか取得できないでしょう。しかし、売上高、経費、現預金残高といった会計データは定量的に取得できますし、従業員数、問い合わせ件数といったデータも定量的に取得できます。判断のために必要な情報を考え、それを諦めずにできる限り適時、定量的に取得できるように考え、オペレーションを設計していくことが重要です。次に、逆の話となります。どれだけデータを取得したとしても、取得したデータは判断に必要な情報の一部に過ぎないということです。定量的に取得できていない定性情報を意識して常に判断をする必要があります。

2.継続的に目的達成に必要となるデータを取得する
時系列にデータを取ることができれば傾向を掴めます。したがって、時系列のデータを取得することは重要です。ただし、適切でないデータを時系列に取り続けても意味がありません。その場合は、継続性を諦めより適切なデータに切り替えることが必要です。技術の進化等により、より適切なデータを取得することができるようになることも多くあるので、常に目的達成により適切なデータとは何かを考え、必要に応じて取得するデータを切り替えていくことが重要です。もちろん、その際にはデータ取得のコスト効果(効率性)も合わせて考慮する必要があります。

3.データを科学的に分析する
データを分析は科学的に行う必要があります。せっかくコストをかけて取得したデータも、適切に分析をしなければ意味がありません。よくあるのは政治的な都合で、データを自らの主張にとって都合が良い結果になるようにすることです。本人の政治的な力を維持するためには意味があるのかもしれませんが、本来の目的達成の害になるだけです。

4.結果を受け入れる
分析の結果が自分の仮説(都合)と異なる場合であっても、論理的に分析した結果は受け入れる必要があります。その上で、データの正確性、網羅性に問題がないのか、分析手法は適切であったかを見直し、最終的にそれでも問題がなければ、自分の仮説が適切でなかったということで自分の仮説を変えることが必要となります。「結果を受け入れる」をわざわざ書いたのはこれができない人を目にするからです。あくまでも科学的に判断し、科学的な結果を受け入れることが重要です。

・科学的に分析をする
さて、これまでデータや科学という言葉を使ってきたのには、理由があります。約3年半前に私が書いた第474号コラム「『デジタル・フォレンジック』という言葉を今更考える」というコラムに関係します。読んでいただくとわかりますが、「フォレンジック」という言葉には、「科学捜査」という意味があります。科学的に物事を考えるという姿勢は非常に重要です。デジタルフォレンジックスに関わる私たちは、常にこのデータを科学的に分析するという姿勢が重要です。

IDF-第474号コラム「『デジタル・フォレンジック』という言葉を今更考える」

世の中、色々な情報が溢れてきます。常にデータが適切か、分析は科学的かを考える必要がありますね。そして、例え自分と異なる意見であっても適切なデータを適切に分析した結果については受け入れる姿勢が必要です。科学的な分析を無視してはいけませんね。

【著作権は、丸山氏に属します】