第66号コラム:吉崎 徳彦 氏 (KSオリンパス(株) 医療機器本部企画部MFSグループ)
題:「メディカル・フォレンジック・システムの展開」

メディカル・フォレンジック・システム(MFS)という動画ファイリングシステムを展開させていただいた状況に触れさせていただきます。医療機関では、患者への説明や研究のため、映像記録をDVDなどでデータを記録することが現在まで一般的であると考えています。しかしながら、手技の安全性やプロセスの正当性の証拠となるデータを披瀝することで手術室の透明化することを目的とする場合、真正性や証拠性が担保された状態でデータを保全するためには、たとえばメディアを複数枚作成し、鍵のかかった場所で作成したメディアを管理するなどが必要になるかと存じます。データの保全性や真正性を担保しうるシステムの実現は、実は様々な課題がございますが、本製品では、最初に製品コンセプトの確立にご協力いただいた順天堂大学産婦人科の菊地先生をはじめ、多くの先生方にご協力により、医療現場での複数映像と生体情報(脈拍、血圧、酸素飽和度など)の同期記録、RAIDの利用、患者情報の暗号化、タイムスタンプの導入などを検討・実現し、単純な動画記録を発展させていただきました。製品のリリース後、以下のような進展がございましたので、紹介させていただきます。

1)長時間にわたる処置や外科的手術と同等のリスクを伴って行われる手技であるERCP手技や、内視鏡的粘膜剥離術(ESD)など内科的手技への対象拡大。

2)フルハイビジョンに対応したシステムにおけるMJPEGの採用(2007年コンピュータ外科学会での慶應義塾大学一般・消化器外科の和田先生によりご発表いただきました。)

3)記録したデータからレポートを作成することによる現場スタッフ負荷の軽減と詳細記録の両立(2007年日本消化器内視鏡学会での仙台医療センター消化器科の野口先生によりご発表いただきました。)

4)院外へのライブセミナーにおいて、術場映像、X線透視画像、超音波画像術者など同時に3映像を配信することによる多面的な情報提供を実現。今までのライブセミナーにおける機器準備や運用に関する利便性が高まった他、ライブセミナーにおけるバイタルサインの同時送信は、生体情報の変化を複数の人間が監視する事が可能であり、リスク回避の意味でも有効(2008年日本消化器病学会総会での京都第二赤十字病院消化器科の田中先生によりご発表いただきました。)

5)チーム医療のための院内での映像配信も、システム導入後のネットワーク接続による集中保存を経て、ストリーミング配信を実現。

 

また、昨今は、PCスペックの向上及びハードディスクの低価格化・大容量化・軽量化・耐障害性の強化が図られている他、今後はSSDが一般化していることから、主に学会発表用にデータを記録されている施設においては、ハイビジョン記録での記録も拡大していると認識しております。

 

最後に、動画記録に関する私見を述べさせていただきます。話はかわりますが、Y2K問題への対応の際、米国では、「西暦2000年問題対応状況関連情報の開示に関する法律」(通称:グッド・サマリタン法、良きサマリア人法)と呼ばれるこの法律ができ、Y2K対策ができていない企業にもその事実を積極的に公開させ、連鎖的な被害を防ぐことを目的としていたとのニュースがございました。グッド・サマリタン法は、「急病人など窮地の人を救うために無償で善意の行動をとった場合、良識的かつ誠実にその人ができることをしたのなら、たとえ失敗してもその結果につき責任を問われない」という法律の通称でも利用されているかと存じます。議論がある点かとは存じますが、動画記録を医療安全のために活用するための前提として、こうした精神も必要なのではないかと考えております。

 

ある人がエルサレムからエリコへ下る道でおいはぎに襲われた。おいはぎ達は服をはぎ取り金品を奪い、その上その人に大怪我をさせて置き去りにしてしまった。

たまたま通りかかった祭司は、反対側を通り過ぎていった。同じように通りがかったレビ人も見て見ぬふりをした。しかしあるサマリア人は彼を見て憐れに思い、傷の手当をして自分の家畜に乗せて宿屋に連れて行き介抱してやった。翌日、そのサマリア人は銀貨2枚を宿屋の主人に渡して言った。『介抱してあげてください。もし足りなければ帰りに私が払います。』(ルカによる福音書第10章第29~37節)

 

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