第674号コラム:須川 賢洋 理事(新潟大学大学院 現代社会文化研究科・法学部 助教)
題:「令和3年の著作権法改正について」

 先日、5月26日に著作権法の改正法案が成立した。頻繁に改正される著作権法であるが、それでも2年連続で改正されることは珍しい。そこで、簡単に改正点を解説してみたいと思う。

 今回の改正点は二つの大きな柱からなる。一つは『図書館関係の権利制限規定の見直し』。図書館における著作権法の規定は、当初より31条(図書館等による複製等)を中心に記述があり、資料保存のための図書館による複製や、利用者が文献を複製する際の条件などがここに規定されている。こちらもデジタル技術の進歩に伴って逐次改訂されていることが特徴で、例えば絶版資料保存のためにデジタル・アーカイブを活用できるようにしたり、関西にも国会図書館ができた際に資料の電送(公衆送信)を可能にするような修正が加えられてきた。そのような一連の修正の中で絶版資料のデータを図書館間で送信できるようにも定められていた。

 今回の改正では、このデータを直接に利用者に対しても送信できるようになる。コロナ禍の影響による改定とも言えるが、ユーザの利便性から見るとある種、画期的な改正とも言える。実務では事前登録した利用者をID・パスワードで管理することになる。

 同様に、図書館利用者の利便性に関わる改正がもう一点あり、調査研究目的の文献の複製サービスの際にも電子メールで送信してもらうことが可能になる。これは例えば自分の大学の附属図書館や通常利用する公立図書館には目的の文献がなく他所の図書館にしかそれがない場合、その資料の一部分(注:全部ではない。あくまで一部分であり「半分まで」と解釈されている。)複写して取り寄せることができるようになっている。実際に使ったことがある人はご存じであろうが、このサービスはけっこう高額で、図書館毎に違いはあるが一枚あたり50円~100円くらい請求されることもある。手数料や送料が掛かるのであるから当たり前であるが、これが電子メール送付になれば多少なりとも低価格化が期待できる。もちろん既存の電子出版市場に影響を与えないような配慮はされており、運用のガイドラインも制定されることになっている。

 ただし、この改正には大きな前提条件が一つ課されることに注目したい。図書館等の設置者が権利者に補償金を支払う必要がある。本コラム658号で書いた遠隔授業の際の補償金と同種なものが必要になる。補償金制度に対する個人的見解はこの658号に書いてあるのでここでは割愛する。この調整には時間が必要であることは容易に想像でき、この部分の施行に関しては「公布日から2年を超えない範囲内に政令で定める日」となり、図書館間での絶版資料のデータ送信部分の施行よりも1年長い猶予期間が与えられている。

 もう一つの大きな改正点が、『放送番組のインターネット同時配信等に係る権利処理の円滑化』。こちらは利用者サイドの規定というようは権利者サイドの規定なので、少々辛口にて解説する。著作権法に限らず日本の法律では従来、放送と通信を別々に規定・管理していたので当然、権利処理の過程や手続きも別々なものになっていた。ところが近年のインターネット技術では放送と通信を区別することがもはや意味をなさなくなっており、放送されている番組をリアルタイムでネット配信することも簡単である。それにも関わらず、これがなかなか行われなかったのは一つには、前述の理由で権利処理が複雑になっていたからであった。

 ユーザからしてみればテレビ放送がリアルタイムにネットで見られることは便利この上ないことである。しかしながらこれがなかなか実現しないのは、ここにこそ非常に強大な権益を巡る争いがあり、民放・NHK・映画会社・音楽業界・実演家などといった利害関係者の混沌としたしがらみがあるからである。それ故にはこの改正の背後には「行革!」という天の声による一括があったともなかったとも言われている。そのせいかどうかは分からないが、こちらは来年、令和4年の1月から施行されることになっている。

【著作権は、須川氏に属します】