第748号コラム:熊平 美香 監事
(一般財団法人クマヒラセキュリティ財団 代表理事)
題:「ゲーム・チェンジ時代のリーダーシップ」

 

 若者に向けて、ゲーム・チェンジ時代のリーダーシップについて語った内容を共有させていただきます。

<ゲーム・チェンジ時代に生きる若者>

ゲーム・チェンジ時代に生きる若者にとって大切なことは、大人や先輩の意見を聴くべきことと、聴かない方がよいことを、識別することです。長く生きる大人が持つ智慧や、古き良き日本については、先輩の話を聴き、これからの未来を創造するテーマについては、多くの場合、自ら考える方が賢明ではないかと思います。無論、未来を創造するためには、哲学が必要になるため、リベラルアーツに代表される人類の智慧は大切です。しかし、AIやWEB3.0を始めとするテクノロジーやカルチャーについては、先輩の意見はあまり役に立たないかもしれません。

<正解はひとつではない>

 学校教育を素直に受けて育った、真面目な学生の皆さんに、絶対に知っておいてほしいことは、大人の言うこと、先輩の言うことを鵜呑みにしないことです。原発事故の直後に、学校の先生方にお話を伺う機会があり、驚いたことは、学校では、政府の見解が明確なテーマしか扱わないというお話でした。原発事故については、様々な意見があり、学校で、このテーマを扱うのは危険であるという考えを持つ先生方がとても多かったです。事故の直前まで、子どもたちは、原発は安全でクリーンなエネルギーであると教わり、原発を広報するポスター作成のコンテストもありました。学校では、このコンテストへの参加を奨励していました。原発事故が発生して、原発を奨励する教育は、学校から姿を消しましたが、原発についてクリティカルな話ができるようになったのは、何年も後のことです。「学校では、正解しか教えてはいけない」という教育の使命は、多くの生徒に、先生や大人の言う事を素直に聴く習慣を植え付けます。

<サステナビリティと幸福の定義>

 ゲーム・チェンジ時代というネーミングには、もう一つ込めた思いがありました。それはSDGsを始めとするサステナビリティや人権などに対する取り組みの本格化です。ドネラ・メディウス先生が、成長の限界」という報告書をローマ・ローマクラブに依頼され作成したのが、ちょうど50年前の1972年です。その後、数多くの人たちが、地球環境の危機を訴え続けた結果、世界全体がSDGsに取り組む社会が実現しています。COP27の様子を見れば、決して楽観視することはできませんが、それでも、10年前に比べれば、人類の取り組みは前進しています。国単位で見ると利害の不一致が顕在化していますが、グローバル企業の取り組みは、とても積極的で、よい未来のために貢献する企業が増えています。世界有数の資金運用会社ブラックロックが、2018年に、企業経営者に宛てた手紙も、ゲーム・チェンジを加速する要因です。

<CEOへの年次書簡2018年版>

 これからの企業は優れた業績のみならず、社会に対してどのように貢献できるかを示さなければ、長期的な成長を継続することはできない。自社の顧客や従業員など全てのステークホルダーにとって価値あるパーパスを示すことで、企業は競争力を強化でき、それは同時に株主には長期的な利益を提供することになる(ブラックロック会長兼CEO ラリー・フィンク)。経済界は、今、収益を追求するだけではなく、人類と地球の未来に対しても、責任を負うことが、良い経営であると考えられるようになりました。この領域において、若者は、自らの考えに沿って行動し、リーダーシップを発揮して欲しいと思います。

<リーダーシップ>

 リーダーシップという言葉には、様々な解釈が存在します。多くの人が、リーダーシップは特別な人だけが有する資質であると捉えているように思います。そして、リーダーシップには、カリスマ性が必要で、自分には、リーダーシップを発揮する適性はないと思っている人が以外に多いように思います。ピーター・ドラッカーは、リーダーシップは、学べるスキルであると述べています。実際に、私もNPO活動に集う大学生に向けてリーダーシップ研修を行い、彼らのリーダーシップを引き出して来たので、リーダーシップが学べるスキルであることは立証済みです。リーダーシップは、一人ひとりの個性を土台に、自分で伸ばしていくものであるということも、皆さんに知って欲しいです。声が大きくなくても、リーダーシップを発揮することはできます。リーダーシップは、他者に対する影響力だからです。 リーダーシップは、自分の言動や存在そのものを通して、他者に主体的に動いてもらう影響力のことです。よい未来を創造するために、他者を巻き込み、一緒に前進するために、多くの人にリーダーシップを発揮して欲しいと思います。

<全員リーダー>

 最近では、全員がリーダーシップを発揮するチームが理想であるという考えがあたり前になっています。全員が、自分の個性を活かし、チームに貢献することで、チームが強くなるとう考え方は、統率することがリーダーの役割だと捉えている人に取っては、理解不能のようです。

 人間の多様性に注目すれば、全員がリーダーシップを発揮するチームが理想だと考えることができます。例えば、冷静な判断、論理的思考でチームに貢献する人もいれば、場の雰囲気を明るく楽しくすることが得意な人もいます。スポーツ大会やバーベキューの企画が大好きな人もいます。このように、自分の個性を、自分だけのものにするのではなく、チームの力にするためには、他者を巻き込み、影響力を与えることが必要になります。

<共感力>

 リーダーシップに欠かせないものとして、最近では、共感力が加わりました。多様性を包摂することが、チームを強くするために必要になったことや、世界規模でビジネスを展開する企業が増えたことが、その背景です。また、社会問題の解決に取り組むことが、これまで以上に重要になっているために、共感力が欠かせないものになりました。自分とは立場の異なる人の状況を正しく理解するために、共感力は欠かせません。気候変動への対処とともに、今、人権に対する見直しが、世界中で進んでいる背景には、リーダーの共感力があります。種問題を始めとするマイノリティへの配慮を、特権を持つマジョリティが行うためには、マイノリティの人々に共感する必要があります。

<若者に期待すること>

 今、起きていることに目を向けるのではなく、何が自分にとって本当に大切なことなのか、自分を見つめることで、見えてくる、自分が大切にしたいことを自己認識した上で、よい未来づくりに参画して欲しいです。変化の激しい時代ではありますが、よい未来に向けた大きな潮流は、すでに形づくられているので、そこはしっかりと見極めて欲しいです。産業革命以来、人類が突き進んできた経済的豊かさの追求には、持続可能な人類の発展と幸福という新しい命題が加わりました。

<先が見えない>

 先が見えないという人が多いです。しかし、今、この瞬間も、よい未来を創るために活動している人たちがいます。よい未来を創る活動を見つけて、自らもリーダーとして、参画することで、未来をより具体的にイメージすることができるはずです。若者のリーダーシップに期待したいです。

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