第75号コラム:大橋 充直(ハッカー検事、IDF会員)
題:「携帯電話機のフォレンジック被害?」

1 携帯電話機を利用したデジタル犯罪

携帯電話(機)は、電子メール機能とカメラ機能(写メ)が加わって、またたく間に普及し、「携帯電話は持っていません。」等と言うとエイリアン扱いされる昨今となった。犯行を目撃した通行人が逃走車両のナンバーを写メして捜査に協力したというプラス面もあれば、携帯電話から脅迫メールやワイセツ画像を送信するというマイナス面も顕著である。飛ばし携帯や携帯電話機詐取も未だ続発しており、その身分証明偽装(ID証書の偽造)もあの手この手の感がある。そもそも、各種統計を総合すると,インターネットへの接続はパソコンよりも携帯電話をブラウザとして使う方が多く、サイトやBBSがらみの犯罪は体感で半数近くが携帯電話由来である。

 

2 携帯電話と情報漏洩

そんな携帯電話機は、実は秘匿を要する個人情報の宝庫である。アドレス帳には、最低限でも、モロに実名と携帯電話番号と電子メールアドレスが登録されているし(半ば当然だが)、電子メール履歴には社外秘や特防秘や犯罪謀議が残っていることもまれではない。パソコンだとそれなりにセキュリティに配慮している個人や組織でも、携帯電話機ならハッキングの被害に遭わないという安心感からか、内部情報を暗号化する方はまずいない。しかし、携帯電話機は、パソコンよりも紛失や窃盗の被害に遭い易い。それはもちろん、小型で紛失盗難が容易で気付きにくいし、所携が当然だから所携率と紛失事故率とは相関するからである。そして、マスコミにはあまり載らないが、拾った・盗んだ携帯電話機を悪用して、携帯電話機の使用者やアドレス帳に登録された使用者の友人に対し、財産犯や性犯罪に及ぶ不届き者も現実に出現している。

 

3 犯人による携帯電話フォレンジック

その手口の具体例や詳細は、模倣犯の出現を防ぐため、残念ながら公開できないが(…<(_ _)>…)、意外と素人の方でも知恵を絞れば、それなりにトレーシングしてしまうのだと驚いたことがある。味噌は、電話帳や電子メール通信履歴から、あの手この手で、サイトを経由したり、メールを乱発して、さらなる個人情報を入手して遂には犯行に及ぶのである。一種の原始的なフォレンジックと掘り下げ捜査・突き上げ捜査に過ぎないが、欲望にかられた犯人達の執念のなせる技だろうか?

 

4 携帯電話機からの情報漏洩防止策

そこで、フェイルセーフの概念を取り入れて、携帯電話機を紛失しても犯罪被害を最小限に抑えるために、「アドレス帳の秘匿登録方法」を紹介しよう。その方法は、アドレス帳には

(1) 本名を登録しない(ユニークなニックネームで登録する)

(2) 住所は登録しない(せいぜい勤務先か市町村レベルしか登録しない)

という2つを守るだけであり、これで最低限の被害防止を図ることができる。

私がお勧めするのは、「親しい間でしか通じないユニークなニックネーム」で「名前」を登録するもので、混乱を招く性格的身体的特徴を意味するものは使わないというものである。たとえば「ヲタク検事」とか「メタボ検事」とかでは、あまりに多くの方が当てはまって特定困難であるし、万一当人の目に触れたなら、憤激までいかなくても不快感を表明する方もいるからである(爆。

 

参考:拙著「検証・ハイテク犯罪の捜査第71回 携帯電話の捜査実務(データ編)」捜査研究NO.683号(2008年5月号)、東京法令出版

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