第832号コラム:舟橋 信 理事(株式会社FRONTEO 取締役)
題:「昨今の組織内の不祥事と”Broken Windows”」

 ”Broken Windows”と言う言葉をお聞きになったことはあるでしょうか。警察関係者には、ご存じの方も多いのではないかと思います。
 ”Broken Windows”は、ハーバード大学教授のジェームズ・ウィルソンとジョン・F・ケネディ行政大学院リサーチフェローのジョージ・ケリングが、月刊誌「アトランティック・マンスリー」の1982年3月号に発表した論文のタイトルで、サブタイトルは”The police and neighborhood safety”です。国内では「割れ窓理論」などとして知られております。
同理論は、建物の割れた窓を放置しておくと、通行人が誰も気にしないと考え、さらに壊され、その周りの環境が急速に悪化し、さらなる犯罪や無秩序が広がるというものです。つまり、小さな違反行為や無秩序を放置すると、それが社会全体の治安や秩序の悪化につながるとされています。
 ニューヨーク市警察は、1990年代にその理論を実践し、これまで見逃されていた軽微な犯罪の取締りを徹底するとともに、併せて、COMPSTAT(コンピュータを用いた犯罪統計分析による警察官の管理システム)の導入、警察官の増員などにより、犯罪発生率を大幅に減少させた実績があります。
 昨今は、政治家の裏金問題や公務員、大企業等の不祥事・不正行為がほとんど毎日のように報道されております。
 これらの不祥事等に割れ窓理論を適用すると、次のことが言えるのではないかと思います。
組織構成員の小さな規則違反やコンプライアンスの緩みを放置すると、大規模な不正に発展することがある。
例えば、製造業の検査部門での小さな不正や不適切な処理を見逃すと、それが企業全体の文化として浸透し、結果的に社会問題として大きなスキャンダルにつながる例が多々見受けられます。
政治家や公務員の小さな不正行為を見過ごすと、それが公的機関全体の信頼性の低下につながり、大きな汚職事件やスキャンダルが発生する可能性があります。
 割れ窓理論の実践は、組織内の不祥事等の発生を防ぐ手立ての一つであり、根本的な問題解決につなげるためには、不祥事等に至った原因の解決も併せて実施する必要があるのではないかと思います。
 例えば、人材の確保が難しく、当該部門の構成員を充足できず、ひいては当該部門に必須な業務上の知識・技能に関する教育・訓練が不十分となるなど、構成員にしわ寄せされる状況で業務に当たらせたことが原因となっていれば、年数が経過して忘れたころに問題が再発することも多いのではないかと思われます。

以上

【著作権は、舟橋氏に属します】