第28号コラム:吉崎 徳彦 幹事(KSオリンパス株式会社 医療機器本部 開発推進室 
                           開発推進グループ グループリーダー 課長)
題:「メディカル・フォレンジック・システムの紹介」

弊社は、内視鏡や顕微鏡などの販売を主たる事業としております。2年ほど前、医療安全を目的として、順天堂大産婦人科の武内先生、菊地先生のご指導の下、術中のあらゆる様子を記録する動画記録装置の販売を開始しました。内視鏡カメラや手術顕微鏡、手術室に設置されたカメラなどの映像と、心拍数や血圧といった生体情報を同時にリアルタイム記録するというものです。手術の映像記録は、今後も広がる可能性があると考えております。昨年度の厚生労働省科学特別研究では、手術室における安全性と透明性の確保に関する研究がなされており、手術室内の映像情報と生体情報の共有化の記録の実態状況の結果、手術の録画を実施しているのは、まだ半数以下の病院にとどまるとのことでした。この研究の背景には、2003年12月に厚生労働省が発した「厚生労働大臣医療事故対策緊急アピール」において、「手術の画像記録を患者に提供することによって、手術室の透明性の向上を図る」ことを促したことがあると考えております。

 その後、慶應義塾大学一般・消化器外科の古川先生、和田先生のご指導の下、医療行為の法的な事後検証に耐えうるデジタル情報の真正性・非改ざん性の担保や情報漏えい対策の機能として、暗号化やタイムスタンプの機能も検討させていただきました。これを機に製品名を「メディカル・フォレンジック・システム」とさせていただき、現在まで、編集やレポート、ハイビジョン対応など、要望に即した機能を追加させていただいております。

 一般的に手術室へ導入されている映像撮影システムは、家庭のビデオカメラと同じように1組の映像と音声の記録しか行えませんが、メディカル・フォレンジック・システム(MFS)では2組までの映像データの同期記録や、患者情報と心拍や血圧変化などのデータ暗号化を実装しております。手術にまつわる法的トラブルにおいて、患者側や第三者機関の求める「真実を知る」ための事前準備として、映像情報をPC操作におけるログとして利用することができるのではないか、と考えております。取得されたデータは、医療安全のみならず、技術向上や検証、学会発表や教育に寄与するなど、いろいろな利用方法があることも利点としてご説明させていただいております。映像記録によって萎縮医療につながるのでは、とのご意見もいただいておりますが、院外からのご批判や過度な安全要求に対して、適切な医療行為がなされていることの情報開示や、心証を得られる説明が可能である、という点で、医療機関側が身を守るために必要なのではないか、という視点から、お勧めをさせていただいております。「隠蔽をしていない」とか「その時点のデータである」ことを客観的に証明する機能は、証拠の信頼性が焦点になる場合に、医療を受ける側と提供する側が、ともすれば敵対することになりかねない関係から、「良い医療」という同じ方向に目を向けることができる基盤となるのではないか、と考えております。フォレンジックのコンセプトをデータの適切かつ確実な保存に結びつけ、コスト削減や効率化に対するアンサーを提供することができることを期待するとともに、今後とも実現に向けた取り組みをさせていただきます。