第29号コラム:澤田 忍 幹事(株式会社NTTデータ 公共ビジネス推進部 技術戦略部
                                 セキュリティ技術推進担当)
題:「未来を創り出すデジタル・フォレンジック」

■情報化により創り出される未来
私は1970年代に生まれ、成長期に電子化・情報化による飛躍的な社会変化を体感した世代だ。パーソナルコンピュータは多くの家庭に普及し、大多数の人が携帯電話を保有する時代となったが、10年前、20年前にこの現実を想像していただろうか。普段の生活において手放せない携帯電話は、今や通話やメールのみならず、カメラ、交通チケットの予約、定期、金融取引、GPS機能など、本当に様々なことを実現するツールになっている。これだけ大きな変化を遂げるならば、次の10年、社会はどのように変化するのだろうかと夢が膨らむ。たとえば、
・携帯電話のさらなる多機能化と、その普及・定着
・サベイランスシステムの監視による安全な社会の実現
・センサータグにより人の見守りやトレーサビリティを実施
・ロボットによる重労働作業や単純作業のサポート
このように、近未来の夢と思われていることが、当たり前のように普及していてもおかしくない。

社会の発展に伴い、「情報セキュリティ技術」「プライバシーの保護」「法制度確立」の必要性がさらに高まることは想像に難くない。デジタル・フォレンジックの意義はますます大きくなるだろう。

■電子データの証拠性
ところで、電子データの証拠としての取り扱いであるが、システムを構成するOSやアプリケーションやデータは全て01(ゼロイチ)で構成されている。01(ゼロイチ)という「物」ではないモノは証拠となり得るのか、データ、証拠解析ツール自体は証拠性を担保できるのか、という議論を聞いたことがある。また、時代の変化による陳腐化への考慮も必要となる。

理論的に証明されている技術や理論に関しては疑念の余地はないが、そもそも目には見えない「電子」データはまるで雲を掴むような概念であり、今の法体系に適切に組み込むことが困難なのかもしれない。

■情報技術のからくりをしっかり理解すること
デジタル・フォレンジックの理解には、情報技術のからくりをしっかり把握することが前提となる。そう考えたとき、学生時代に質量分析機を用いた化学実験のために受けた「機器分析」という授業を思い出した。
化学理論に基づいて手で行っていた実験の自動化・機械化が飛躍的に進んだことで、ブラックボックス化してしまった機器が、どのような理論に基づいて動作しているかを説明するというその逆説的なあり方が興味深かった。

過渡期においては、過去に学ぶべき点があるかもしれない。

情報技術の技術的理解により実証を重ねていくこと、社会の仕組みの変化に合わせて法制度として何が必要かの模索を行うことで、情報技術と法制度が相互に理解を深めたデジタル・フォレンジックという重要な社会基盤が形成されるだろう。
それにより、さらに進化した未来を創出することできれば、デジタル・フォレンジック研究会として大きな貢献が果たせると考える。