第123号コラム: 山田 晃 氏(慶應義塾大学 新川崎先端研究教育連携スクエア
グリーン社会ICTライフインフラ研究センター(火~金) 研究支援センター本部・産官学連携コーディネーター)
題:「大学等における安全保障輸出管理」
平成21年4月に、「外国為替及び外国貿易法(外為法)」の一部が改正され、技術取引規制の見直しや、罰則の強化が行われました。改正の詳しい内容については割愛しますが、現在では、安全保障上懸念がある貨物や技術(大量破壊兵器等の開発のために利用・転用可能な貨物・技術)等を外国に向けて提供する場合には、その全てが規制対象となり、経済産業大臣の許可が必要となります。
この改正を受けて、継続的に輸出等を行う輸出者が遵守すべき事項を定めた「輸出者等遵守基準」が経済産業省により定められ(平成22年4月1日施行)、貨物の輸出や技術の提供を行う際には、この基準に従って行うこととされています。
「輸出者等遵守基準」では、全ての輸出者等が遵守すべき基準として、①輸出管理の責任者を明確にすること、②関係法令の遵守を指導すること、③安全保障上機微な特定重要貨物(リスト規制品)等の輸出等を業として行う者は、その他の適切な輸出管理を実施すること、等が規定されています。これらは、反復・継続して、貨物の輸出や技術の提供を行う場合に適用されますが、その例としては、①海外の自社工場や得意先に自社の製品を輸出している、②新興国・開発途上国での需要が拡大しているため、販路拡大を目指して新たな輸出を計画している、③外国の研究機関との間で共同研究を開始し、図面やデータを送付する予定がある、等が挙げられています。
これらの規定に違反した場合、刑事罰(10年以下の懲役又は1,000万円以下の罰金)や行政制裁(3年以内の貨物輸出・技術提供の禁止)が課されることになりますが、これらの罰則は、違反行為を行った本人のみならず、所属する法人等も対象になる可能性がありますので注意が必要です。
大学等においては、先端的な教育・研究活動が行われており、又、海外の大学や研究機関等と国際的な共同研究を実施しているところも増えています。更に、海外からの留学生受入数は年々増加しており、平成21年5月現在の留学生数は、過去最高の132,720人を記録しています(前年比7.2%増。独立行政法人日本学生支援機構平成21年度外国人留学生在籍状況調査結果による。)。こうした状況の中、大学等におきましても、外為法による規制の趣旨を十分踏まえた上で、適切な対応が求められています。
大学独自の「安全保障輸出管理規程」を既に施行している大学が幾つかあります。現段階では全て国立大学ですが、今年度末までには、私立大学等でも同様の規程が施行されると予想されます。規程を作ること自体はそれ程難しいことではありませんが、それを如何に効率よく、正確に運用していくかが共通の課題です。
故意・過失を問わず、留学生等を通じて情報が外国にもたらされた場合、その行為をどのようにして追跡するかが重要となります。例えば、フォレンジック技術をどの程度、活用することができるか、その体制は整備されているか、ツールは準備されているか、証跡を確保し、追跡することができるか、などなど。
情報セキュリティやフォレンジック技術の分野では、教育機関は遅れている傾向にあるのかもしません。まずは関係者の意識を高め、事故が起こらないよう、適切な体制を整備していくことが大切です。
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