第158号コラム:佐々木 良一 会長(東京電機大学 未来科学部 情報メディア学科 教授)
題:「デジタル・フォレンジック研究会 新会長就任挨拶」
辻井重男前会長の後を継いで2代目の会長に就任いたしました佐々木です。私のような浅学非才のものに会長が務まるかどうか不安ではありますが、やる以上はデジタル・フォレンジックの発展に尽くしたいと思います。会員の皆さまのご指導、ご協力をよろしくお願い申し上げます。
本研究会が発足したのが2004年の8月ということで7年がたとうとしています。この間、いろいろなことがありました。2005年には内閣官房セキュリティ技術戦略委員会報告書に11の重要技術の1つとしてデジタル・フォレンジックが取り上げられました。2006年12月には「デジタル・フォレンジック事典」が辻井前会長の監修で出版されました。また、2008年1月には第4回Digital Forensic International Conferenceが日本で実施されました。
このようにいろいろな動きがあったのですが、デジタル・フォレンジックに興味を持つ人は一部の専門家に限られていたように思います。しかし、この傾向が、この一年ばかりで変わりつつあるように思います。大相撲の八百長の証拠が消したはずの携帯電話の中から復元されたり、大阪地検の検事が、証拠のデータを改ざんしたのが判明したりとデジタル・フォレンジックに関連する事件がいろいろ発生して、一般の人たちも電磁的記録の改ざんや回復、さらには証拠性の確保に興味を持ちつつあるように思います。いよいよデジタル・フォレンジックの時代が来つつあるのかもしれません。
このような時代に会長に就任するに当たり、研究会として以下のような活動を行っていく必要があると思っています。
1 社会のための研究会活動の強化
(1)証拠性の確保技術の普及を通じての社会の安全性向上
(2)日本のフォレンジック産業の強化
2 メンバーのための研究会活動の強化
(1)国内外の最新動向の容易な把握
(2)活動状況を発表する場の確保
研究会活動はまず社会の役に立つものでなければなりません。社会の安全安心を確保するためには、防御に主眼を置いた従来のセキュリティ対策だけでは不十分であり、不正行為が行われた事実を証拠化し、不正行為者を積極的に特定する技術が必要になっており、この技術を高度化し社会に普及させていく必要があります。残念ながら、現状では日本のデジタル・フォレンジック技術は米国などに比べ遅れ気味ですが、研究会活動を通じて世界をリードできるものにしていく必要があります。このためには分科会活動のますますの活性化が期待されます。また、そのような活動の中から産学の連携を行い、日本のフォレンジック産業を強化し、海外にも打って出られるようにしていければと思います。
研究会は会員のためにも役立つものでなければなりません。このため、学会活動を行っていると種々の有益な情報が入ってくるような仕組みが大切になります。このためにはコラムやメルマガの充実が重要になってくるでしょう。また、海外の技術者との連携も大切になってくると思います。さらに、各分野の研究者が自分の研究成果を発表する場も必要になってきます。これまでの年に1回の会合や分科会活動以外に発表の場を確保することも必要になってくると思います。そのため、学会誌(研究会誌)発行も検討すべき時期に来ているのではないでしょうか。少なくとも、その検討のためのWGを発足させることを考えてもよいのではないでしょうか。
以上、会員向けに書きました。
会員以外の方にも一言挨拶させていただきます。フォレンジックとはある対象物に対して、高度な技術を用いて、証拠性を維持しつつ、法的問題を解決する手段で、わが国では以前から法科学などと呼ばれていた分野です。そのうちデジタル・データに関するものをデジタル・フォレンジックと呼びます。上述したように、大相撲の八百長メール事件など私たちの周りにもデジタル・フォレンジックが不可欠となる事件が増えてきております。皆さまの安全安心の確保のためにもデジタル・フォレンジックに興味を持っていただき、さらに興味があれば入会を検討いただくようよろしくお願い申し上げます。
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