第190号コラム:佐々木 良一 会長(東京電機大学 未来科学部 情報メディア学科 教授)
題:「新しい年を迎えて」

新しい年2012年を迎えました。2011年はまさに激動の年でした。「東日本大震災」は、大地震、津波、原子力発電所事故と連鎖的に発生し大きな被害を与え、今も「あけましておめでとう」等とは言いにくいような爪痕を残しています。

セキュリティ関係でもいろいろなことがありました。新しいタイプの攻撃が広がり、従来の対策では守りきれないような状況になってきています。このため、ネットワーク関連のログを保存し利用するネットワーク・フォレンジックの重要性が認識されるとともに、サーバなどのログとの相互関連を早急に確認できるシステムの必要性も増大してきています。また、従来のデジタル・フォレンジックがいよいよ実用段階に入ったなというのを強く感じます。個人情報の漏えいに関連して漏洩事実や漏洩経路を明確化するために民間でも専門業者に依頼してデジタル・フォレンジックを適用する機会が増えてきているように思います。さらに、デジタル・フォレンジックの専門家でない情報セキュリティ技術者がデジタル・フォレンジックに興味を持ちはじめ、昨年9月に「デジタル・フォレンジック製品&トレーニング概要説明会」を実施したところ多くの方々に参加いただきました。

そういう意味で、デジタル・フォレンジック研究会としては、よい状況になっていると思います。昨年5月に会長に就任するに当たり、研究会として以下のような活動を行っていく必要があると思っていると書きました。

1 社会のための研究会活動の強化
 (1)証拠性の確保技術の普及を通じての社会の安全性向上
 (2)日本のフォレンジック産業の強化

2 メンバーのための研究会活動の強化
 (1)国内外の最新動向の容易な把握
 (2)活動状況を発表する場の確保

この考えは今も変わっていません。研究会活動はまず社会の役に立つものでなければなりません。また、同時に、メンバーに役立つものでなければなりません。このいずれに対しても、もっとも大切なのが分科会の充実だと思います。分科会活動については3つの分科会とも非常に充実してきており、活動の中から新たな問題を発掘したり、一般の人たちに役に立つガイドシステムが生まれようとしています。デジタル・フォレンジック・コミュニティも充実したものとなり、社会に役立つものとなってきているように思います。

 問題は、現状では日本のデジタル・フォレンジック技術が米国などに比べ遅れ気味な点です。研究者の数は少しずつ増えては来ていますが、十分ではありません。また、それらの研究がビジネスと結び付いたというのも少ないように思います。

このようなことを可能とするためには、海外の技術者との連携も大切になってくると思います。さらに、各分野の研究者が自分の研究成果を発表する場も必要になってきます。これまでの年に1回のコミュニティや分科会活動以外に、情報処理学会のコンピュータセキュリティ研究会や、日本セキュリティ・マネジメント学会などと協力して発表の場を確保することを考えてもよいと思います。

このような研究会をさらに充実させる対策を1年かけてしっかり考え、議論することができればと思っています。
2012年1月1日

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