第210号コラム:小山 覚 理事(株式会社NTTPCコミュニケーションズ
 カスタマサービス部 部長)
題:「理事就任のご挨拶と「デジタル・フォレンジック」と私の関わりについて」

●ご挨拶と自己紹介

 皆さま小山覚(こやまさとる)と申します。5月18日のIDF総会で理事就任のご承認を賜りありがとうございました。何とぞよろしくお願いします。事務局のご配慮で早い時期にコラムの執筆の機会を頂きましたので、ご挨拶と自己紹介をさせて頂きます。

私は NTTに入社後9年間関西で勤務し、1997年からは東京でネットワークセキュリティ分野に関わってきました。2001年にCodeRedワームが世界中で蔓延した折、個社で対応する限界「技術・情報・法制度・体制」を感じ、助けを社外に求めました。
社外に飛び出してみますと同じ課題や悩みを持った方が沢山おられ、IDFとの出会いも含め、その時の交友関係が自分自身の財産になっており、お世話になった諸先輩の皆さまには大変感謝しております。

●デジタル・フォレンジックとの出会いは背中合わせ?

恥ずかしながら私はIDFが発足して初めて「デジタル・フォレンジック」という言葉を知りました。一方で日常業務ではそれとは知らず「デジタル・フォレンジック」と関わりがあったように思います。

IDFが発足した2004年は、ADSLや光ファイバーなどのブロードバンド環境が普及期に入り、常時ネットに繋がったパソコンを踏み台にした悪事が横行するようになったのもこの頃です。#ネットの秘匿性に加え悪事を働くコストも下がったということでしょうか。

その当時のISPは利用者からの苦情や救助要請に応えつつ、警察からの捜査関係事項照会や捜査令状で求められた通信記録や契約者情報等を報告する役目を粛々と担ってきました。
私自身も通信記録の収集や分析、そして分析結果の活用が、どこまで法的に認められるのか、個々の事例について監督省庁にも相談しつつ取り組んできましたので、デジタル・フォレンジックの取組みとは、非常に近い距離に居ながら背中合わせの関係を保ってきたように思います。

今となって少し悔やまれるのは、私が当時適法性の検討をしていたのは、デジタル・フォレンジック的な視点ではなく、ISP として外部からの要請に対応する行為が通信の秘密を侵害しないか、あるいは何らかの違法性阻却事由は成立するのか、という観点に限定されていたことです。

●通信の秘密はDNAに埋め込まれたトラウマ?

釈迦に説法はお許しいただきたいのですが、電気通信事業法には「従事する者が通信の秘密を侵害する行為をしたときは、三年以下の懲役又は二百万円以下の罰金に処する」とあります。
通信会社は社員に対してこれを墨守するように徹底した教育を行ってきましたので、社員は利用者の通信に関わる場合は、通信の秘密に抵触しないか慎重に考え、一旦行動を止めてしまうようなところもあります。まるで通信会社のDNAに埋め込まれたトラウマとでも呼ぶべきでしょうか。。

一般の方々が「通信の秘密を侵害する」と聞くと、通信内容を外部に漏らしたり、悪用することをイメージされる方が多いようです。
ところが通信の秘密を侵害する行為とは、例えばIPアドレスを持つ端末同士を接続するため、通信系路上にあるルータなどが、通信パケットに含まれてい
る宛先のIPアドレスを機械的に識別し、宛先に向けてルーティングする行為も通信の秘密を侵害していると考えられています。
簡単に言うと通信を成立させるための行為が通信の秘密を侵害しているということになります。

えっ、そんなバカな!という反応もいただきますが、ご安心ください。通信を成立させる行為そのものは正当業務行為ですので違法性は阻却されるという整理なんだそうです。でなければ今頃は通信事業社の社員は全員逮捕されて誰もいなくなっているかもしれませんね。(笑)

こうなりますと、現場の社員は通信の中身に関わることには無茶苦茶ビビる訳でして、決められた手順に従った業務を粛々とこなす以外に、選択肢は残されていないことは想像に難くないわけでございます。この辺が通信事業者が通信の秘密を金科玉条の如く守り、問題の解決に非協力的であると批判されている所以でもあります。

なんだ、紙面を割いて日頃の言い訳をしていたのか!?と怒られそうですが、私がIDFの皆さんと、ISPなどの通信事業者との相互理解の掛け橋になれたら何よりの幸せと思っております。

とりとめのない自己紹介となりましたが、引き続きよろしくお願いします。

【著作権は小山氏に属します】