第209号コラム:西川 徹矢 理事(株式会社損害保険ジャパン 顧問)
題:「理事就任のご挨拶と情報セキュリティ改正法について」

去る5月18日の総会でご承認を賜り総務担当理事に就任いたしました西川でございます。
2008年5月から同じように総務担当の理事をやらせていただいておりましたが、09年8月急遽公職に復すことになり、やむなく理事を辞し、昨年8月、任が解けたのを機に会員に復帰させていただき、この度大変光栄なことに再び理事として活動をさせていただけることになりました。いわゆる復帰組ですが、気分を一新して任を全うしたいとの所存でございます。まずはこの紙面をお借りしまして、ご挨拶申し上げます。よろしくお願い申し上げます。

過日、現職時代の資料等を改めて整理していたところ、小生が駆出し時代に雑誌に投稿した自動車用シートベルトの翻訳記事が偶然出てきました。自動車のシートベルトは、米国では1950年代中頃から交通事故対策として導入されるようになり、20年近く経た67年3月に規則によって設置が義務化され、広く一般に普及しました。

我が国でも、69年4月普通自動車の運転席への設置を皮切りに導入されましたが、着用規制は、71年6月法改正で努力義務となり、85年9月から高速道路等の通行車両に法的罰則を伴った着用義務を課すまで多くの時間とエネルギーを費やしました。

私が投稿した70年代前半は、交通死亡事故抑制対策の切り札として、努力義務とされた着用を罰則化を含め、いかに推進するかの渦中でありました。現在ではシートベルトの有用性や着用義務は当たり前になっていますが、当時は、直接生命に関わるものであり、事故防止には極めて有効な手段であると認められるものであっても、一歩進めて、いざ立法化となると各方面から強い反対がありました。各種のキャンペーンや広報を実施し、我々もその一環として国内外の論文や報道記事などを片端から紹介しました。規制の法制化とはいかに難しいものかを初めて身近で体験したものであります。

昨年6月、サイバー犯罪条約絡みの刑法等の改正案が成立しましたが、小生もNISCの責任者として関与させていただきました。先例の轍を踏まぬようにと所管官庁の法務省をはじめ関係官庁及び広く学界、法曹界、IT業界等の方々の多大な情熱とエネルギーが注がれ日の目を見たものであります。

また、本年3月には、改正不正アクセス禁止法が比較的短い期間で制定され、5月に施行されるようになりました。国会の混迷振りからもう少し時間がかかるのではと懸念していただけに、うれしい誤算となりました。3省庁をはじめとする立法関係者のセンスと努力に秀でたものがあったと、大いに敬意を表したいと思います。

法律制定作業にはそれぞれの法律固有の難しさがつきまといます。とりわけIT (情報通信)の分野は、技術の発展・開発のピッチが未だに速く、また、オレンジ革命等に見られる政治的・社会的影響力の未知性・不安定性が拭いきれないだけに難しくなります。特に、情報セキュリティ分野にあっては、社会のIT依存度増大に伴う副作用とも呼ぶべきサイバー攻撃等の負の脅威が増大しており、これらの脅威への対応・対策が、例えばゼロデイ攻撃等もあってどうしても後手に回わらざるを得ないところがあります。

更には、政府・公共機関や企業がITをインフラとして大々的に利用し、併せて国民が安心・安全してITを使うためには、制度・運用に加えて、特に情報セキュリティのための対策・対応の一環として規制等の法制化がますます必要となります。

NISCで勤めたこの2年間多くの専門家からも同様のご意見を拝聴しました。しかも、それと同時に、その難しさをつとに理解されており、自らがオピニオンリーダーとして、提案し続けることが肝要であるとの決意の程が窺われ、私も大いに触発され自らのメインテーマとして今まで以上にしっかり受け止めるようになりました。

このような中にあって、この度の2法の制定は大変な朗報でありましたし、これが契機なって、04年我が国が承認した「サイバー犯罪に関する条約」が近々にも批准されることにもなりました。正に批准が実現した暁には、我が国のセキュリティレベルが一段と向上するものと心から期待するところであります。

【著作権は西川氏に属します】