第220号コラム:宮坂 肇 理事(NTTデータ先端技術株式会社
セキュリティ事業部 セキュリティソリューションBU長)
題:「情報の大切さと正しさが求められる社会、その後」
一年ほど前になるが「情報の大切さと正しさが求められる社会」(コラム第160号:2011年6月9日発信)というタイトルで本コラムを執筆した。少し振り返ると、スマートデバイス(スマートフォンやタブレットを指す)の進化と普及、ソーシャルメディアの発展と、一般家庭への浸透による情報交換が活発化し、活用範囲が広がる。これにより、情報量が爆発的に増加し、その伝達速度が増大するなかで、気軽に様々な情報を入手できる一方、本当に「必要な情報」や「正確な情報」が判別し難くなる。技術的な進展も必要となるが、情報を正しく正確に伝える文化も形成していく必要があるのではないか、というように括った。
さて、一年の振り返りとともに、今回は「情報の大切さと正しさが求められる社会、その後」というタイトルで雑感を記して見たい。
最近はあまり使われなくなった言葉であるがガラパゴス携帯、いわゆるフィーチャーフォンを通勤電車内で利用している人をあまり見かけなくなってきた。
スマートフォンやタブレット端末を使って、新聞記事の閲覧やメールの読み書き、“つぶやき”をしている光景に変わってきている。大手携帯キャリアもスマートフォンやタブレットの販売が中心となってきている状況であり、一年前と比較すると、スマートデバイスは広く普及していることが伺える。
企業利用はどのような状況なのであろうか。積極的に活用したい企業は増加していると考えられるが、「セキュリティが心配である」ということを理由の一つとして、導入まで踏み切れていない企業が多いのではないだろうか。企業の心配ごとは、スマートデバイスのセキュリティを確保するためにはどのようにすれば良いのか、スマートデバイスを使う際の企業のセキュリティ管理ルールをどうしたら良いのか、情報を持ち出して紛失したり流出したときのリスクが大きい、などが代表的ではないだろうか。近年だとスマートデバイスのセキュリティ関連製品は、ウィルス対策ソフト、MDM(Mobile Device Management)などが市場に投入されており取捨選択ができるようになってきている。
さらに、BYOD(Bring Your Own Device)の検討についても企業導入で悩ましいことを聞く。コスト削減という企業の理屈はあるとはいえ、携帯するデバイスを複数持ち歩くことは、もはや ”スマート” ではない。会社支給の携帯電話よりも、自分の生活スタイルにあったスマートデバイスを持ち歩き、業務でも使いたいという考えは自然の流れである。ところが、日本企業では BYOD導入はあまり進んでいないのが現状である。理由の一つとしては、情報の紛失や流失を懸念して、情報管理を行う目的でデバイスも管理下にするべきだという傾向が強いのではないだろうか。
ソーシャルメディアの普及状況はどうだろうか。スマートデバイスとともにユーザー数も増加している。Twitter や FaceBook などの代表的なソーシャルメディアは日常生活の一部として情報交換や個人の情報発信などに活用されている。企業活動としてソーシャルメディアを活用し、広報や販売促進、マーケッティングなどの活用も増加している。ソーシャルメディアサービスも多種多様であり、提供する企業の再編も活発化しそうである。これらの背景としては、企業活動や個人生活の一部とソーシャルメディアはなくてはならないものになってきたことが言える。
スマートデバイスやソーシャルメディアの活用では、個人情報による個人の特定と個人の趣味趣向などの傾向が自明になってしまうというプライバシーを如何に守るか、企業や個人の重要な情報が気づかないうちに流出してしまうといったセキュリティ上の課題、誤った情報や誤解により俗にいう“祭り”や特定の個人に対し誹謗中傷などの問題、等々のセキュリティ確保やプライバシー保護の課題などが顕在化している。
課題に対応するためにセキュリティベンダは対策製品や対策サービスを提供し、ソーシャルメディア提供者はプライバシー設定などを行える機能を提供する、注意喚起を行うなどの策が施されつつある。政府等もスマートメディアの正しい使い方を示したガイドラインを策定し公開するなどの取組みもされつつある。
直近では、総務省から出された「スマートフォン プライバシー イニシアティブ ~利用者情報の適切な取扱いとリテラシー向上による新時代イノベーション~」(2012年8月7日公表)でも利用者情報の適正な取扱いやスマートフォン・プライバシーの対策などが提言としてまとめられている。
安全かつ安心に個人個人が過ごすためには大規模災害などの自らの生命をも守るための「大切な」情報は、正確でなければならない。一方、企業の今日のビジネス環境ではスピードが重要であり、迅速な意思決定を行うためには、正確な情報を如何に速くかつ安全に伝達することが要求される。
個人の生活や企業の生産活動において、情報はなくてはならない大切なものであり、情報を共有するための手段としてスマートデバイスやソーシャルメディアは必然となるだろう。プライバシーやセキュリティ、法制度、技術対策などの課題が解決され、ますます普及することを期待している。
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