第274号コラム:守本 正宏 理事(株式会社UBIC 代表取締役社長)
題:「Predictive Coding実用現場での所感」
 
 多くのリーガルプロセスの中で人々の想像以上に大変な作業がドキュメントレビューと呼ばれている工程です。ドキュメントレビューにはさまざまなケースがありますが、なかでも大変なのは米国民事訴訟やカルテルなどの刑事事件におけるディスカバリ対応時に発生する作業です。

 ドキュメントレビューは基本的には人が実施します。ドキュメント数が数万ファイル~数百万ファイルになることがあり、数名で1、2週間、数十名で数か月、なかには数百名で1年以上かかるものもあります。費用は数百万、数千万、数億、数十億など様々ですが、間違いなくいえることは、費用も時間も労力もディスカバリ作業の中では最も重いものだということです。費用に関してはディスカバリコスト全体の70%を占めています。

 なぜ、このような莫大な費用や膨大な時間をかけてまでドキュメントレビューを実施するかというと、理由は主に二つあります。一つはそこまで実施しなくては、秘匿特権資料を提出してしまう可能性や重要文書の未発見による提出漏れの可能性を最小限にすることができないからです。そして、もう一つの重要な理由は、これまでのコンピュータの能力では限界があって、最終的には人の判断に頼らざるを得ないからです。実際のディスカバリ作業時には、日時やファイルの種類や対象者で証拠ドキュメントを絞ったのち、さらにキーワード検索などで絞り込んだ後でも、前述したような相当数のファイルが残ることになるのです。

 このような理由によりドキュメントレビューは人によって行われてきました。しかしながら、最近は会社が持つ電子データの量が急速に増大し、そろそろ人の作業に限界が出てきました。企業はこれ以上ドキュメントレビューに費用と労働力をかけ続けるには限界にきているのです。

 そこで出現したのがPredictive Codingです。Predictive Codingとはコンピュータが“人がどのようにして文書の仕分けを行うか”を学び、その学んだ方法でコンピュータ自身が文書の仕分けを行う技術です。ディスカバリ業界ではPredictive Codingはまさにバズワードになってきています。
 現在、このPredictive Codingの自社開発に成功しているのは、あくまでも私の知っている限りでは世界で3社程度ですが、私の会社もその一つです。その中でもアジア言語に対応しているPredictive Codingは弊社だけです。
 弊社はすでに日本企業及び韓国企業のドキュメントレビューでPredictive Codingを活用し、費用の大幅削減、及び正確性の大幅アップを実現しました。

 その中でも品質チェックで活用したアジア企業の訴訟案件で大変興味深い事例があるのでご紹介します。
 ある訴訟のドキュメントレビュー作業を数十人のレビューアーを契約して米国東海岸で実施しました。その際に、ドキュメントレビュー結果の品質チェックという事でPredictive Codingを活用したのですが、その結果を見てあることがわかってきました。数十人の中で品質にばらつきがあるということです。しかも当然ですが疲れてきてその一人ひとりの結果の中でもばらつきが出ていました。しかも中には明確に外れている人もいました。そのレビューではほぼ全員が弁護士資格を持っている人たちで、その人たちをその案件に限って契約してレビュー作業をしてもらっていました。弁護士資格を持っていても、そのようなばらつきは発生しました。(考えてみれば当たり前のことですが。)特に長時間実施すると疲れることは全ての人に共通していました。
 この結果を見た企業代理人の主任弁護士は、特にばらつきが大きく、精度の悪いレビューアー弁護士を次々解雇していったのです。

人とPredictive Codingの能力を数字で比較するとPredictive Codingの正確性は弊社のPredictive Codingの場合は90%以上ですが、人は平均60%程度と言われています。速度は弊社のPredictive Codingが1時間に33万ドキュメントをレビューするのに対し、人は約15~80ドキュメント前後です。実にPredictive Codingは人の4000倍以上の速さで仕分けをすることができるのです。しかも正確で長時間続けても疲れません。Predictive Codingは最初ハイプロファイルな弁護士の仕分けを学んでその通り正確に実行するために、実は4000人ものハイプロファイル弁護士が全く疲れないで長時間仕分けを実行していることと同じことになるのです。

 これでは人は到底かないません。
 もちろん、弁護士の必要がなくなるかと言うと決してそんな事はあり得ません。Predictive Codingもハイプロファイルな弁護士から学ばなくてはなりませんし、ハイプロファイルな弁護士の戦略的思考には全く追いつけません。
ただ、ドキュメントレビューでも特に1次レビューとかファーストレビューとか言われている単純仕分け作業には弁護士は必要なくなるということです。もちろん弁護士だけでなく、パラリーガルも含めて人はもうほとんど必要なくなるという事です。それだけでも理論的にはディスカバリコスト全体の35%~40%は削減することが可能となります。

 これまでもさまざまな産業で人がロボットに置き換わってきました。訴訟ビジネスの世界でもいよいよそのような状況がきたようです。私は弁護士が弁護士に解雇される様子をニューヨークで目の当たりにし、そのように感じざるを得ませんでした。 

【著作権は守本氏に属します】