第327号コラム:宮坂 肇 理事(NTTデータ先端技術株式会社 セキュリティ事業部
セキュリティソリューションBU)
題:「子供のセキュリティ」

大手通信教育会社の名簿漏えい事件は、社会的に大きな影響を与え続けており、不正に企業の保有する情報を持出したことによる個人情報の保護や不正競争防止法などのいわゆる法律面、スマートフォンなどの外部記憶デバイス等による情報の持ち出を防止する技術面、委託先会社の管理面など、様々な側面で論じられている。本コラムでも各執筆者が専門家としての立場から述べている(バックナンバーは、当デジタル・フォレンジック研究会のホームページ等で確認されたい)。

本事件は、テレビや新聞等の報道で大きく取り上げられ、日本全国の子供を持つ家庭に知られ、子を持つ親に不安を与えている。子供自身の個人情報は、子が成長し、進学、社会人、結婚など将来にわたり利用され続ける可能性が高く、親の心配も大きいことであろう。大手通信教育会社の事件は、今後も様々な場で論じられることかと思われるが、今回は、青少年の子を持つ親の立場で、今どきの子供に関する事象について取り上げてみたい。

筆者の子供の頃は、自然に囲まれた都会から遠く離れた場所に住んでおり、もちろんインターネットすら無い時代であった。情報は新聞やテレビ、ラジオなどから手に入れ、友人との連絡は直接会って話しをするか、電話くらいしかなかった。特定された情報源で、限られた範囲での人と人との小規模なネットワークで学生生活を過ごしていた。子を持つ親も、子供に関する情報は、学校関係か、通信教育会社への提供程度であった。子供宛のダイレクトメールなどの郵便物も殆ど無い。この時代の親は、自身の子供の個人情報の提供や取り扱いなど無頓着でもよかった。

現代はどうだろうか。子供たちは、携帯電話やスマートフォンを保有し、友人と連絡を取り合い、携帯ゲーム機で遊び、タブレットを使った通信教育などのコンテンツを利用し、勉強やゲーム等の情報はインターネットで入手等々、検索サイトを使って不特定の情報源にアクセスし、広範囲のネットワークの中で生活をしている。子を持つ保護者も子供の育成に関する情報をインターネットで入手し、親同士も携帯電話やスマートフォンなどのメールで連絡を取り合っている。昔と比べると、時間と場所を超え便利な時代である。

一方、ほぼ毎日のように、子供の年齢や学年に合わせた勧誘や物販のダイレクトメールなどの郵便物やメールが、通信教育会社、進学塾、通販会社など子供宛や親宛に届く。中には、登録すら身に覚えのない会社からのダイレクトメールであったりする。いったい、子供や保護者の個人情報は、どのように流通しているのであろうか、常に不安である。

子供を持つ家庭では、子供の育成や日常生活などインターネットを利用したサービスをパソコンやスマートフォン等のデバイスを使い、活用している。子供関係で提供されているサービスのいくつかを列挙してみる。

・通信教育
・進学塾の連絡、成績閲覧、模試申込
・学校やPTAとの日常・緊急連絡メール
・鉄道会社のICカード乗車券利用や改札通過通知サービス
・携帯電話による位置通知サービス
・スポーツ(サッカー、野球、水泳などのスクール)スクールの連絡
・通販会社(子供服、おもちゃなど)の通販
・親同士のメール連絡、など

これらのサービスの利用には各々のサービス提供会社には、子供氏名、生年月日、性別、住所、電話番号、メールアドレス、保護者の氏名などを登録することになる。子供の育成のために、保護者と子供の個人情報を提供する。

一方、サービスを提供する会社のホームページ等では、個人情報保護方針などに利用目的、第三者提供、委託の有無、個人情報の取り扱い、個人情報の開示・訂正、利用停止などの手続きなどが掲載されており、登録時の申込書にも記載されており、保護者は、同意した上で個人情報を提供していることになる。ところが、特に提供会社では提供された個人情報の保有期間を明示しておらず、多くの保護者はこの点に気づいていない。進学塾を退塾した時、スポーツクラブを脱退しとき、通信教育を修了した時などのサービスの供与を受けなくなった時に、提供会社が削除してくれるものだと勝手に思い込んでいる可能性が高い。提供会社の多くは、特に定めが無い限りは個人情報を継続保有することが多いと考えられる。

子供の成長や育成ために、子を持つ親は便利で、役立つ多くのサービスを利用する時代であるがゆえ、子供の将来のためには、子供の個人情報をどこに登録したかの記録を残し、必要に応じ管理状況を確認、削除するなどの措置をとることが必要なのかもしれない。

今回は、子供の個人情報に関することを中心に記したが、子供に関するセキュリティ事情は幅広く、深いので別な機会に整理してみたい。

【著作権は、宮坂氏に属します】