第339号コラム:佐々木 良一 会長(東京電機大学 未来科学部 情報メディア学科 教授)
題:「デジタル・フォレンジック人材育成カリキュラム等の検討
(デジタル・フォレンジック・コミュニティ2014「研究会3」の告知)」

デジタル・フォレンジックについては、内閣官房情報セキュリティセンターから平成26年7月10日に発行された「情報セキュリティ研究開発戦略(改定版)」において16の重点分野の1つになっているのに見られるように、その重要性は広く認められ始めており、デジタル・フォレンジック研究会の会員も順調に増えていっている。しかし、日本においては、①十分な技術力を持つデジタル・フォレンジック技術者や研究者(中級―上級レベル)、ならびに、②デジタル・フォレンジック知識のある技術者(初級レベル)がいずれも不足しているといわざるを得ない。

デジタル・フォレンジックの人材育成のために米国では、大学・大学院においていろいろな教育がなされている。大学院の修士課程においてデジタル・フォレンジックの専門家を育成するコースが12もあり、いろいろな科目が準備されている。例えば、Carnegie Mellon Universityにおいては、「Master of Science in Information Networking with a concentration in Computer Forensics and Incident Response 」が設置され、次のような科目が準備されている(http://docs.lib.purdue.edu/dissertations/ The Development of a Standard Digital Forensics Master‘s Curriculum Kathleen Strzempka Kathleen A. Strzempka, kstrzemp@purdue.edu )。

14-761: Advanced Information Assurance
14-822: Host-Based Forensics
14-823: Network Forensics
14-824: Advanced Host-Based Forensic Analysis
14-825: Advanced Network Analysis
14-826: Event Reconstruction and Correlation

しかし、日本の大学では、デジタル・フォレンジックに関するコースはもちろん、正式な科目を用意しているところもないと考えている。これではまずいということで、昨年度より、東京電機大学の大学院にデジタル・フォレンジックの科目を設置し、講義と演習をやっていくことを計画してきた。その過程で、本年度、文科省「高度人材養成のための社会人学びなおし大学院プログラム」の1つとして東京電機大学の「国際化サイバーセキュリティ学特別コース」が採用され来年から最低3年間講義を行うことになった。その中でデジタル・フォレンジックは次の6つの科目の1つとして実施されることになった。

(1)サイバーセキュリティ基盤
(2)サイバーディフェンス実践演習
(3)セキュリティインテリジェンスと心理・倫理・法
(4)デジタル・フォレンジック
(5)情報セキュリティとガバナンス
(6)セキュアシステム設計・開発

2015年度は後期金曜日18:10~19:40に実施の予定で、受講者は社会人20人、大学院生20人を想定している。企業の方々や他大学の先生、弁護士さんの協力を得て、現時点では次のようなカリキュラムにしていこうと考えている。

(1)デジタル・フォレンジック入門(電大 佐々木)
(2)ハードディスクの構造,ファイルシステム(立命館 上原)
(3)フォレンジックのためのOS,Windows(立命館 上原)
(4)フォレンジック作業の基礎(UBIC 野﨑)
(5)フォレンジック作業・データ保全(UBIC 野﨑)
(6)フォレンジック作業・データ復元(トーマツ 白濱)
(7)フォレンジック作業・データ解析1(トーマツ 白濱)
(8)フォレンジック作業・データ解析2(UBIC 野﨑)
(9)上記の演習(トーマツ 白濱、UBIC 野崎)
(10)ネットワークフォレンジック(攻撃法,マルウェア,ログの取り方)(電大 八槇)
(11)上記の演習(電大 八槇)
(12)代表的な対象におけるDFの方法1(トーマツ 白濱)
(13)代表的な対象におけるDFの方法2(UBIC 野﨑)
(14)法リテラシーと法廷対応(弁護士 櫻庭)
(15)デジタル・フォレンジックの今後の展開 (電大 佐々木)
(16)学力考査と解説

これは、初級レベルの技術者の育成を目指すものであり、2016年度以降2コマにし、中級レベルまでの教育ができないかということも検討中である。もちろん、人材の育成は大学だけでできることではなく、専門企業での教育、オンザジョブトレーニングによるもの等、いろいろな教育や実務と組み合わせて実施していくことが必要であると考えている。

「研究会3」はパネル形式で実施することを予定しており、パネリストとしては、他に、立命館大学 上原哲太郎氏、デロイトトーマツリスクサービス(株) 丸山満彦氏、(株)UBIC 野﨑周作氏、西村あさひ法律事務所 櫻庭信之氏、プライスウォーターハウスクーパース(株) 山本清子氏に参加いただくことになっている。パネリスト並びに会場への参加者との討議を通じて、次のような点が明確になっていけばよいと考えている。

(1)初級デジタル・フォレンジック技術者育成のための今回の東京電機大学のカリキュラムの適切性や変更の要望
(2)中級・上級DF技術者になるのに必要な実務ならびにさらなる教育
(3)必要とされている人物像
(4)DF教育の困難性と対応策
(5)企業と大学のDF教育の分担 他
ぜひご出席いただき、討議にご参加いただければ幸いです。

【著作権は、佐々木氏に属します】