第426号コラム:小向 太郎 理事(日本大学 危機管理学部 教授)
題:「国外サーバへのロー・エンフォースメント(その後)」

2年近く前に、第330号(2014年9月29日)のコラムとして、「国外サーバへのロー・エンフォースメント」を書いた。そこで紹介した事例や論点についてその後の動きが出てきたので、今回は続報を書きたいと思う。

先のコラムで取り上げたのは、次のような事例である。米国司法省が捜査しようとしたマイクロソフト社のメールサーバがアイルランド所在であったため、マイクロソフト社がアイルランドの主権を尊重して国際法的なルートで捜査を行うべきだと主張してこれを拒否した。司法省が捜索差押令状(search warrant)を取得して強制捜査を行おうとしたところ、マイクロソフト社はこれを拒否し、令状の効力停止を求める申し立てをした。2年前には、ニューヨーク南地区連邦地方裁判所によって同社の主張が退けられていた。

マイクロソフト社はこの決定に対して異議申し立てをしており、先月2016年7月14日に連邦第2巡回区控訴裁判所が地裁の決定を覆し、マイクロソフト社の主張を認めている。プライバシーの研究者として著名なジョージワシントン大学のダニエル・ソロブ教授は、「マイクロソフト社はついに政府の監視に対して大きな勝利をあげた」として、この決定を支持する見解を出している(https://www.linkedin.com/pulse/microsoft-just-won-big-victory-against-government-why-daniel-solove)。少なくとも、米国法(Stored Communications Act of 1986)に基づく令状の効力が、無条件には海外所在のサーバに及ばないと判断されたことの意味は大きい。

海外のサーバに対する捜査については、わが国の裁判でも争点になっている(横浜地判平成28年3月17日)。前回のコラムで触れた「接続サーバ保管の自己作成データ等の差押え(刑事訴訟法218条2項)」が、問題となった事例である。2011年に新設されたこの規定によって、捜査機関がコンピュータを差し押さえる際に、そのコンピュータがネットワーク接続しているサーバ上で作成した(メール・サーバ上の)メールや(ストレージ・サーバ上の)文書ファイルを、複写して差し押さえることができるようになった。本事案では、捜査機関がこの規定に基づいて取得した令状によって差し押えたPCから、国外所在の可能性が高いサーバにアクセスして取得したことが問題となっている。判決のなかで裁判所は、国外サーバへの捜査が主権の侵害になりうることを懸念し、「サーバコンピュータが外国にある可能性が高く、捜査機関もそのことを認識していたのであるから、この処分を行うことは基本的に避けるべきであった」という見解を示している。

ただし、横浜地裁の事例では、国外サーバに対する捜査であることは傍論的に扱われている。証拠の違法性として主に問題となったのは、データの取得が検証令状に基づいて行われたことである。実は、捜査機関が当初「接続サーバ保管の自己作成データ等の差押え」を行った際には、パスワードがわからなかったために、データを複写して差し押さえることができなかった。しかし、差し押えたPCを解析することで、後からアクセスできるようになったのである。捜査機関としては、接続先サーバにアクセスする際に、再度「接続サーバ保管の自己作成データ等の差押え」の令状を取得することも考えたが、対象のPCが既に差し押さえられているため「差押え」の令状は適切でないと考えて、検証令状で捜査を行った。

接続先サーバへの捜査を検証令状で行えるのであれば、そもそも上記規定を新設した意味が無いので、これが問題となるのは当然である。しかし、差押え済みのものについて差押え令状を請求することには、確かに違和感を感じる。それでは、接続先サーバの捜査は、差押え時に限定しなければならないのだろうか。率直に言って、捜査機関が迷ったのも分からないでもない。今後このような場合に捜査機関がどのような対処をすべきかについては、きちんと検討して考えを示しておく必要がある。

ところで、米国マイクロソフト社の事例とわが国の事例を比べると、米国の事例ではサービス・プロバイダに対する捜査が問題となっているのに対して、日本の事例では被疑者のPCからアクセス可能なサーバへの捜査が問題となっている。特に被疑者のPC等が対象となる場合には、直接の差押え対象となったPC等に保存されているデータと接続先サーバに保存されているデータの境界が、クラウド・サービスの進展によって曖昧になっている。今後、PCやスマートフォンに対する捜査がさらに増加するなかで、国外サーバにデータを置くことで犯罪者が罪を免れてしまうようなことが生じれば、それば望ましいこととはいえない。海外の捜査機関との捜査共助は迅速に行うことが難しいという意見もあるが(神奈川新聞2015年10月04日参照)、本当に障害になるのであれば、実情にあった国際的なルールを定めていくことが不可欠であろう。

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