第527号コラム:舟橋 信 理事(株式会社FRONTEO 取締役、株式会社セキュリティ工学研究所 取締役)

題:「準天頂衛星とデジタル・フォレンジック」

数十年前より業務の効率化を図るため、車両(特にパトロールカーなどの緊急車両)や人の位置測定について、さまざまな取り組みが行われてきました。その精度は、測定方式により数百メートルの誤差を生じるものもありました。

GPS衛星の民生利用が始まると、精度は飛躍的に高くなりました。「電機通信事業における重要通信確保の在り方に関する研究会報告書」(総務省、2003年7月)では、緊急通報を行った携帯電話の位置情報通知機能に関する技術的条件として、最も測位環境が良好な場合(仰角約5度以上の天空に遮蔽物が無い環境)、半径15m程度とされております。

昨年10月に準天頂衛星「みちびき」の4号機が打ち上げられ、現在、静止軌道衛星1機、準天頂軌道衛星3機の4機による運用体制となっており、センチメートル級の精度を確保可能な状況となってきております。今年度中には、準天頂衛星の「センチメータ級測位補強サービス」の信号を受信できる高精度測位端末も売り出されるとのことです。平成35年度までに7機による運用体制となり、国内では国産の準天頂衛星のみでの衛星測位サービスが可能となります。

なお、準天頂衛星は、GPSの精度向上を図るための補完・補強サービスと災害時などのメッセージ機能が提供されます。

車両、航空機、船舶、人などの位置測定の精度が向上しますと、事故調査や犯罪捜査において、デジタル・フォレンジックの側面から、対応を迫られることになります。

交通事故の際、車両に搭載されているカーナビやドライブレコーダに組み込まれているGPS、或いは、スマートフォンのGPSによりセンチメートル単位での車両や人の軌跡などにより、車両や人の位置関係が明白になります。船舶の事故や航空機の事故究明の際にも、有益な情報が得られるものと考えられます。

既に、準天頂衛星の「サブメータ級測位補強サービス」を利用したドライバーの道路交通法違反(制限速度超過、右左折禁止、一時停止違反、踏切不停止、進入禁止)をクラウド上に記録し、可視化するサービスが出現しており、ドライバーの安全管理や企業のコンプライアンスの向上に役立つと思われます。

準天頂衛星を活用したさまざまなサービスが社会に実装されるにつれ、デジタル・フォレンジックの出番も増えてくるものと考えられます。

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