第547号コラム:安冨 潔 会長(京都産業大学 法務研究科 客員教授・法教育総合センター長、慶應義塾大学 名誉教授、弁護士)
題:「新しい年を迎えて」
初春のお慶びを申し上げます。
みなさまにとりましてよい年となりますように心から祈念申しあげております。
おかげさまでデジタル・フォレンジック研究会は、昨年、創立15年を迎えることができました。これもひとえに会員のみなさまがたが積極的に研究会にご参加いただいたことによるものと深く感謝申しあげます。
さて、今年は、「平成」最後の年です。ふりかえれば、平成元(1989)年は、日本のドメイン名が.jpより移行が開始され、属性ごとに階層化されたドメイン名となった年であり、年末には「Japanese Christmas」と呼ばれる日本初の国産コンピュータウイルスが出現した年でもありました。
その後情報通信技術の革新と進展にともなって、21世紀に入ると、わが国社会は、インターネットその他の高度情報通信ネットワークを通じて自由かつ安全に多様な情報又は知識を世界的規模で入手し、共有し、又は発信することにより、あらゆる分野における創造的かつ活力ある発展が可能となる「高度情報通信ネットワーク社会」(高度情報通信ネットワーク社会形成基本法第2条)と位置づけられ、高度情報通信ネットワークの安全性の確保等の観点から情報セキュリティの重要性に関心が寄せられることになりました。ことにインターネットの普及にはめざましいものがあり、インターネットが人々を支える社会インフラとして機能するようになるにつれ、ネットワークを介した重要インフラへのサイバー攻撃やサイバーテロの発生など新しい脅威が生まれ、安全・安心な情報通信社会の維持が重要課題となったのです。
このような情報通信社会の発展にあって、2004年8月23日、情報セキュリティの新しい分野である「デジタル・フォレンジック」の啓蒙・普及、調査・研究、講習会・講演会、出版、技術認定等の事業を通じて、健全な情報通信技術(IT)社会の実現に貢献することを目的として、デジタル・フォレンジック研究会が設立されました。
デジタル・フォレンジック研究会設立当時は、「デジタル・フォレンジック」について一般に知られていない時代でした。しかし、辻井重男初代会長が、先見の明をお持ちになって、デジタル・フォレンジックの重要性を説かれ、技術分野や法律・経営分野などから幅広く賛同を得て、デジタル・フォレンジック研究会が発足することとなりました。その後、デジタル・フォレンジックの認知度が高まるにつれ、デジタル・フォレンジックの研究・実務における人材育成の必要性に深く関心を寄せられた佐々木良一前会長が、ご尽力になられ一層充実した研究会として歩むこととなりました。
デジタル・フォレンジック研究会では、デジタル・フォレンジック講習会や講演会のほか、技術関連、法務関連、管理・監査関連等の分科会を設けて会員相互の研究を深め、デジタル・フォレンジック・コミュニティを毎年12月に開催してまいりました。
デジタル・フォレンジック研究会の最大の催しであるデジタル・フォレンジック・コミュニティは、
第1回 :デジタル・フォレンジックの目指すもの
第2回 :デジタル・フォレンジックの新たな展開
第3回 :J-SOX 時代のデジタル・フォレンジック
第4回 :リーガルテクノロジーを見据えたフォレンジック
第5回 :グローバル化に対応したデジタル・フォレンジック
第6回 :事故対応社会におけるデジタル・フォレンジック
第7回 :生存・成長戦略を支えるデジタル・フォレンジック
第8回 :実務適用が広まったデジタル・フォレンジック
第9回 :企業活動のグローバル化に伴うデジタル・フォレンジック基盤の確立
第10回:サイバー攻撃激化時代のデジタル・フォレンジック
第11回:ビッグデータ時代のデジタル・フォレンジック
第12回:IoT/クラウド、M2Mのデジタル・フォレンジック
第13回:実用化が進み始めたIoT/自動化とデジタル・フォレンジック
第14回:見えない**との闘い-事後追跡可能性とデジタル・フォレンジック
第15回:デジタライゼーション×デジタル・フォレンジック
と多様なテーマでその時々のデジタル・フォレンジックを考えるものであったと思われます。
本年は、5月1日の新天皇即位に伴い元号を改められることが予定されており、あらたな時代に入ることとなります。
高度情報通信ネットワーク社会も、いまや国境を越えて人々が情報空間のなかで自律性をもって活動するデジタル時代に入っています。
このようなデジタル時代においてデジタル・フォレンジックの重要性はますます増すものと思います。
会員のみなさまのますますのご活躍をお祈りいたしますとともに、デジタル・フォレンジック研究会へのご支援をよろしくお願いいたします。
会長 安冨 潔
【著作権は、安冨氏に属します】