第561号コラム:熊平 美香 監事(一般財団法人クマヒラセキュリティ財団 代表理事)
題:「リフレクション」

2017年、経済産業省により、社会人基礎力の定義が見直されました。その際に、リフレクションを盛り込むことを提案し、2018年より、わが国の社会人基礎力に、リフレクションという言葉が盛り込まれました。なぜ、社会人基礎力に、リフレクションを盛り込むことを提案したのか。その背景をご紹介したいと思います。

リフレクションとは、状況に直面した時に慣習的なやり方や方法を規定どおりに適用する能力だけでなく、変化に応じて、経験から学び、批判的なスタンスで考え動く能力のことです。2003年にOECDが発表した義務教育の新たな指針で、子どもたちが習得すべきコンピテンシーの中でも要となる力と定義したのがリフレクションです。

私は、2010年から、教育を変えるために様々な活動に取り組んでいます。その中のひとつに未来教育会議の活動があります。未来教育会議では、多様なステークホルダーによる対話を通して、教育のあるべき姿を探求してきました。視察で訪れたオランダでは、4歳の子どもが普通にリフレクションを行っています。普通の学校の普通の先生が、子どもにリフレクションの問いかけを行います。「この3ヶ月のワークの中で一番誇りに思うワークは何か。なぜ、誇りに思うのか。何に苦労したのか。次に同じワークに取り組むとしたら、何を変えるのか」そして、子どもは、とても自然にこの問いに答えます。大人が、本当にリフレクションの意味を理解しているから、このような問いかけができるのだと思いました。

オランダの様子を見て、大切なことに気づきました。大人が実践できないことを、子どもに教えることができません。社会が実践していないことを、教育に求めることはできません。この気づきを、未来教育会議ではさらに発展させ、教育と社会(企業)が双子であるというメッセージとともに、「経済と教育の対話」の必要性を訴える活動を開始しました。画一的な教育が、子どもの可能性や創造性の芽を摘んでしまうと考えていましたが、日本では企業も、教育同様、画一性を重んじています。上司に従う受身人材、忖度する社員は、学校の先生と生徒の関係と同じです。一方、21世紀の教育にシフトしているオランダを訪れると、大人の社会も、多様性を包摂し、市民の主体性が社会を創っています。教育を変えるためには、社会(企業)が変わる必要があります。

鶏と卵の話ではありますが、私も大人の一員として、教育批判をする前に、自らが時代の要請に合致した人間になる必要があります。また、教育批判を行っている経済界も、21世紀の経営にシフトする必要があります。2017年には、「経済と教育の対話」をテーマに、独立行政法人経済産業研究所でお話をさせていただきました。そのご縁から、社会人基礎力の見直しに際して、研究会にて発言をする機会を頂戴し、リフレクションが社会人基礎力に盛り込まれることになりました。

社会人基礎力にリフレクションが盛り込まれ、ネットでリフレクションという言葉を検索すると、リフレクションに関する情報をたくさん見つけることができるようになりました。

リフレクションは、日本語では内省、反省ではありません。内省も、反省も、その対象は過去ということになりますが、反省は、変えられない過去を振り返り、なぜ間違ってしまったのかを反省することが狙い、最後は、過去を封印し、謝罪をして終了という感じでしょうか。リフレクションは、これとはかなり異なる思考プロセスになります。過去から学ぶことがその目的なので、成功でも失敗でも、過去の経験があるから賢くなると考えます。現状とありたい姿のギャップを明らかにし、その原因を突き止め、法則が見出せると、その法則は、次に生かすことができます。出来事を、出来事で終わらせず、学習機会に変えるリフレクションは、前例を踏襲しない時代に生きる私たちにとって必須の力です。

2015年に立ち上げた21世紀学び研究所では、大人のリフレクション力を高めるために、認知の4点(意見・経験・価値観・感情)セットというフレームワークを開発しました。自分の考えの背景にある経験、感情、価値観を客観視することで、リフレクションの質を高めることができます。経験にはたくさんの情報が含まれており、その中から、何を学ぶのかが、学びの質を決めます。ところが、人には、認知の枠があり、その学びはとても限定的なものになりがちです。気づきや学びの質を高めるために、自分の考えの背景を理解する必要があります。また、意見の背景にある価値観を理解することは、抽象概念を扱う思考力を支えます。経験学習を通して学びを抽象概念化し法則を見出す際にも、認知の4点セットが便利です。ぜひ、皆さんも、認知の4点セットで自分の考えを客観視してみてください。

認知の4点セット

意見:考えていること
経験:その考えの背景にある経験や知識は何か。
価値観:その考えは、どのような価値判断が含まれているのか。
感情:経験には、どのような感情が紐づいているか。

【事例】認知の4点セット

このフレームワークは、1月に【図解・保存版】自分を知るリフレクション講座実況中継として、ニュースピックスで紹介され、大きな反響を呼びました。リフレクション力を高めることに興味のある方は、ぜひ、読んでみてください。

【著作権は、熊平氏に属します】