第579号コラム:宮坂 肇 理事(NTTデータ先端技術株式会社 サイバーセキュリティインテリジェンスセンター長 プリンシパル)
題:「やっとコード決済を使ってみて思うこと」

2019年10月1日に予定されている消費税引上げに向けて、政府や民間企業ではキャッシュレス化の促進を行っている。特に、経済産業省では中小・小規模事業者による消費者税引上げ後の9か月間に限りポイント還元を支援する「キャッシュレス・消費者還元事業(ポイント還元事業)」を実施している。本コラム執筆時点では、登録決裁事業者は775社、加盟店登録申請が約43万件であると発表されている。この事業では、消費者還元5%、加盟店手数料率3.25%以下の引き下げを条件として国が1/3を補助、中小企業の端末導入では決済事業者が1/3、国が2/3補助し、負担ゼロとする、フランチャイズ等では消費者還元2%とする制度となっている。

これまでの日本におけるキャッシュレス化は、諸外国と比較すると遅れており、昨年の経済産業省の経済研究によると、進んでいる韓国や中国の半分にも達していないという。キャッシュレス比率は、韓国は96%、中国は60%、アメリカは46%であるのに比較して、日本では約20%と低い。日本の独自性もあるかもしれないが、日本では現金決済が主流であり、クレジットカード決済やモバイル決済に対して、事業者や消費者が積極的でないという。日本国内の少子高齢化などにより、慢性的な人手不足が続いており、キャッシュレス化によってこの問題の解消策として、消費税引上げも一つの契機として推進しているところであるという。政府は、本事業などにより2020年までにはキャッシュレス化率を現在の2倍に引き上げる目標を掲げている。

“キャッシュレス”は、広く普及している「クレジットカード」、「電子マネー」、「デビットカード」、「QRコード」などなどの種類がある。また、実際に決済が行われるタイミングも異なり、クレジットカードのような「後払い」方式、電子マネーなど予め入金をしておく「前払い」方式、デビットカードのように決済時に預金口座から引き落とされる「即時払い」などのような種類がある。

「キャッシュレス化」時代が到来しつつあるが、最近おきた身近な話題を取り上げたい。

私自身は、この数年を振り返ると現金をあまり使わなくなってきた。現金による支払いを行うのは、懇親会などの飲食をする際に割り勘を行う場合や小規模な店舗で現金払いしかできない場合など、かなり限定的なシーンでしか、現金を使わなくなった。交通機関を利用する場合の乗車賃は交通系ICカードによる決済、駅の売店等やコンビニなども交通系ICカードによる支払い、出張等の新幹線利用なども交通系ICカードやクレジットカードによる決済、食事等も交通系ICカードによる支払い、など殆どが交通系ICカードによる支払いで済ませている。キャッシュレス決済として、交通系ICカードで十分であると考えていた。

ところが、先日、自宅近所のスーパーの改装があり、現金かQRコード決済の二種類になり、時代かなぁ、まぁあまり買い物に行かないからよいか、と思っていた。ところが、よく行く理髪店も現金で支払っていたのが、QRコード決済が可能となり、そろそろQRコード決済も支払い手段として用意するか、と考え始めた。使うことの後押しをしたのは、このスーパーをよく使用している家族がQRコード決済を使う、と言い始めたからである。簡単に使えるようになるので、設定して使えばよいと伝えていたのであるが、昨年12月におきたQRコード決済事業者の事案、大手コンビニ会社のコード決済の事案があり、セキュリティに不安がある、と言い出したので、使っていない私自身も、重い腰をあげはじめた。いまさらながらであるが・・・。

近所のスーパーでは、特定のQRコード決済事業者しか使えないが、その事業者が提供する店舗が比較的多いことなどから、そのQRコード決済「〇ペイ」を使うこととして、家族と一緒に設定をすることとした。アプリをダウンロードし、設定をはじめた。決済方法は、クレジットカード、銀行口座引き落としなどが利用できるが、クレジットカードを設定することにした。設定自体は、業者が言っているように30秒程度でできる。クレジットカードの登録も、スマートフォンのカメラで撮影し、カード番号、有効期限等はアプリが認識し、入力はカードのセキュリティコードを入れるだけ、これで使えるようになる。早速、近くのコンビニで使ってみる。レジにて、スマートフォンのコードを読み取ってもらうことで、支払い完了、実に使い易い。

さて、設定を進めるなかで、家族からいろいろな質問が来た。

「クレジットカードと銀行口座ってどっちの方が安全なの?」

「本人確認の認証っているの?」

「本人確認は、パスワードと生体認証が選べるんだけど、どれが安全なの、使い易いの?」

「クレジットカードだと日ごと、月ごとの最大利用金額が決まっているんだけど、上限額をあげるには3Dセキュア使わないといけないんだけど、3Dセキュアって、なに?」

「3Dセキュアの設定をしようとしたら、クレジットカード会社のホームページに移動したんだけど、大丈夫なの?」

などなど・・・。やはりQRコード決済を初めて使うということと、フィッシングメール等が数多く来ていること、昨今QRコード決済で発生している事案も報道等でよく見ていてセキュリティ上の不安があること、などがあり質問には、ひとつひとつ丁寧に説明を差し上げました。

経済産業省が8月頭に、個人情報保護委員会、金融庁と連名で「キャッシュレス決済機能を提供する事業者の皆様への注意喚起」が行われた。キャッシュレス化を促進するなかでの消費者の安全・安心を確保するために、決済事業者はガイドライン等を遵守するとともに、常に最新のセキュリティ情報を収集し、セキュリティレベルを向上するように努めることを依頼している。この文書では、昨年、設立されたキャッシュレス推進協議会が2019年3月に策定し公表した、「コード決済に関する統一技術仕様ガイドライン」などを参照するようになっている。

キャッシュレス化を促進することは、日本の経済を発展させるための一つの手段となると思われる。一方、セキュリティ上の課題を決済事業者などが解決しており、消費者や店舗が安心してキャッシュレスサービスを使えるように、消費者等の目線で分かり易く説明することも必要になってきていると思う。

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