第580号コラム:守本 正宏 理事(株式会社FRONTEO 代表取締役社長)
題:「医療用医薬品販売情報提供活動におけるRegTechの活用」

以前、このコラムで、金融機関におけるRegTechの活用について述べましたが、今回は医薬品販売活動、つまり医師などに対する製薬会社のMR(医薬情報担当者)のアプローチにおける活用についてご紹介します。

近年、医療用医薬品に関する販売情報提供活動において、証拠が残りにくい行為(口頭説明等)、明確な虚偽誇大とまではいえないものの不適正使用を助長すると考えられる行為、企業側の関与が直ちに判別しにくく広告該当性の判断が難しいもの(研究論文等)の提供といった行為が行われ、医療用医薬品の適正使用に影響を及ぼすおそれが懸念されています※。

このような状況を踏まえ、厚生労働省は、販売情報提供活動において行われる広告又は広告に類する行為を適正化することにより、保健衛生の向上を図ることを目的として、「医療用医薬品の販売情報提供活動に関するガイドライン」を策定し、2019年4月より運用が開始されました。このガイドラインでは「業務記録の作成・保管」、「評価への反映」、「販売情報提供活動やプロモーション資材の適正性をモニタリングする監督部門の設置(10月1日から適用)」など、監督指導や体制のさらなる強化が求められています。特にMRの営業日報/週報の管理においては、膨大なデータのモニタリングが必要となるため、MRを抱える製薬会社にとって、対応工数や体制の確保は大きな課題となっています。

例えば、MRが1,000名在籍し、「1人あたりの1日5件の業務記録の作成」、「審査担当による日報チェック時間が1件あたり3分」と仮定すると、審査対象の日報総量は5,000件×20営業日=100,000件/月となり、全件チェックに5,000時間/月が必要となります。

MRの日報/週報から不適切とされる可能性の高い情報・表現を正確かつ効率的に検知するためには、デジタル・フォレンジックのノウハウとAIの技術が必要になります。

具体的には、まず審査内容やガイドラインを元に、現状の課題を整理し、審査の観点(検知したい表現)や適用方法を決定します。そして、評価モデルを作成し、AIを用いてテストデータによるチューニングを実施した上で、専用環境を構築し、AIを用いた審査業務を開始します。人はAIが発見した疑義のある日報を審査することになります。

AIによって発見された疑義のある日報を全体の5%(5,000件)と仮定した場合、審査担当者によるチェック業務は250時間/月となり、時間に換算して4,750時間、工数に換算するとおよそ30人/月相当の削減効果が予測できます。

一方、AI技術を活用した効率化には、その信頼性の担保も必要です。100%の信頼性は現実的ではない中で、可能な限りその高い信頼性を追求していくという手法は、デジタル・フォレンジックで培ったノウハウが生かせるものと考えています。

※平成30年9月25日「医療用医薬品の販売情報提供活動に関するガイドラインについて」から引用

【著作権は、守本氏に属します】