第706号コラム:西川 徹矢 理事(笠原総合法律事務所 弁護士)
題:「4月(予定)の『サイバー警察局』創設等に期待する~~ 実働部隊活動の中核として ~~」

昨年6月24日、警察庁は、我が国の警察組織を大幅に改変することを公表した。これは、新型コロナウイルス感染症を契機とした社会のデジタル化に伴い、サイバー空間の「公共空間化」の進捗、サイバー攻撃の潜在化リスクが一段と高まったこと、更には、国家を背景にしたあからさまなサイバー攻撃の増長や悪質なマルウエアによる攻撃手法が拡大するなどによって、サイバー空間をめぐる社会的な脅威が極めて深刻な情勢になったことを受けたものである。この種の犯罪あるいはこれに類する行為による脅威に対する本格的かつ強力なオペレーション機能を増強した組織の創設等を目指した大改革を企図したものである。

これは、我が国における社会全体のデジタル化を強力に推し進める動きに歩調を合わせるようにして、その負の部分を確実に剔抉し、その弊害を抑制するという画期的な方針を打ち出そうとするものであり、その成果が大いに期待されるところである。

政府内では、これを受けて、直ちに検討を重ね、1月28日の閣議において、政府案としての具体的実施方策が、今年の通常国会提出法案として承認され、国民の前に、国際連携を通じた実行行為の封圧等徹底した撲滅を目指す抜本的な叩き台が示された。これからの国会における審議過程でその仔細が詳らかにされることとなった。

因みに、この一連の動きの直前(昨年5月7日)、首都ワシントンを含む東部の州で、米大手石油パイプライン企業コロニアル・パイプライン企業が経営する精製石油製品の輸送パイプラインを舞台にした大規模かつ強烈なランサムウエア攻撃事案が発生した。このランサム攻撃事案は、これまでのように専ら経済的利益を目的として敢行された既成概念の範疇を大きく越えて、直接地域社会に甚大な影響をもたらすものであった。当然、我が国においても、大型サイバー攻撃に関する議論が始まった直後であったことから、多くの人はこの事案への事態対処方針と、その後の影響やその取組み方に強い関心と期待を寄せ、今回の我が国政府の決定を迎えられたのではないかと想う。

とりわけ、ここ数年、ランサムウエア攻撃事案の脅威については、世界的にも注目を浴びており、私も発生と同時に本件に強い関心を持って注視し、個人的にも国内外の報道等から情報収集や情報分析を行っていた。取り分け、この中で、発生後暫く経った頃から、発動されるアメリカ政府の対処措置が、これまでのランサム攻撃事案の場合と異なって、かなり早い段階から国家危機管理対応レベルの事案対応の時と似通った対応が展開されているように感じられた。その後、更に被害状況や事態対応部隊活動が明らかになるにつれて、規模的にも社会的にもこれまでの単なる経済利益を狙った身代金目的事案の対処レベルを超え、ほぼ発生と同時のタイミングで、実質的に国家的危機の対処措置が実施、運営されていたのを確信した。私は、この時の分析を踏まえて、本件事態の対応が一つの時代の中で対処基準が移りつつあるとして、その直後に発刊された本件メルマガの中で取り上げ、目の当たりにしたこのプロフェッショナルな仕事ぶりを同輩方にも紹介し、一報を情報シェアした。

このようなこともあって、このたび公表された我が国政府(警察庁)の施策に、何処までこの動きが取り入れられ、具体的な対処手法としてカバーされているのかをしっかり確認したいと思っている。

なお、個人的な考えとしては、このような分野における危機管理事態への対処事例は、中央組織においても、単なる政策提言や議論だけに留めることなく、貴重な先例として、その中から導き出された対処案や教訓を日頃の各種活動に照らして慎重に検討・試行し、その成果を組織の中で蓄積、精緻化し、事案によっては有効な施策として活用すべきものであると思う。また、現実の対応に当たっては、研鑽を積んで、当該組織が組織体として局面に応じ、反射的に反応できるレベルにまで高め、オペレーショナルな要素の強いものとして身につけていなければならないと考える。特に、各様のサイバー攻撃絡みのものは、自然災害や不注意な事故と異なり、人為的な要素の強いものであるため、この点に期待を込めて、フォローしたいと考えている。

今回の政府案について、これまでに資料や報道により明らかになったところによると、視野としてのレベルを更に高め、国の安全保障の観点をも十分に取り入れ、警察庁の情報通信局を解体し、同時に新たに250名ほどの捜査員や技術専門家等からなる、サイバー攻撃対処を専門とする局を創設することとする。また、併せて、その実効性を期して、警察庁の指揮下に直轄実働部隊として、地方支分局に、「サイバー特別捜査隊」を同じく4月から設けることとするようである。

警察庁では、これをベースにして、国内外のサイバー空間における脅威や被害の実態、対処活動実態、課題等について、これまでの体制の中で培われた広範な情報収集機能も併せて活用し、より有用な情報収集・分析に努めることになるものと想う。将来は、これに加えて、これらの部隊の中核となって、顕在的及び潜在的な企図者グループ等の幅広い動静情報の収集・分析を行うとともに、諸外国機関との協力、連携活動等を促進して、現実の個別事案の対処に当たっては、「心技体」の備わった立体的かつ広範な対応・対処を目指す、これまでにない「実働に強い部隊」になるべきことを期待して已まない。

【著作権は、西川氏に属します】