第707号コラム:守本 正宏 理事(株式会社FRONTEO 代表取締役社長)
題:「AIドラッグマイニングについて」

デジタルフォレンジックにおいて、証拠探しは干し草の中の針、砂漠の中の米粒を探すがごとくと言われていますが、創薬研究もまさに同じです。有用な新規候補化合物を見つけていく過程は、真っ暗な洞窟の中を手探りで探索していくような状況といっても過言ではなく、何とか見つけ出したとしても、その成功確率はわずか2万分の1から3万分の1とも言われています。

新型コロナウィルス感染症により、ワクチンや治療薬開発に関する関心が非常に高まっており、医薬品を海外からの輸入に頼らず日本国内で早期にかつ安全に開発し、いち早く市場に届けるというニーズはますます高まっています。

新規医薬品開発の過程で、動物実験を通過してもヒトを対象とした臨床試験において「有効性」が欠けていたり、その化合物が実は別の疾患で非常に有効な事がある事実を見逃していたり、人の先入観や思い込みで見逃してしまうヒューマンエラーが発生していたりなど、さまざまな理由により最終的に薬として開発されずに埋もれてしまっている化合物が、わが国だけでも数十万から数百万個レベルで存在していると言われています。そして、これらの埋もれている財産の中から、新薬候補を探し出そうというプロジェクトは日本国内においても数年前から開始されています。

しかしながら、候補化合物に関連する医学論文データは人が読むにはあまりに膨大で、かつ各論文の内容が基礎から臨床に至るまでかなりの広範囲に及んでおり、それをノンバイアスでかつ網羅性をもって分析するのは、人の力だけではもはや不可能といっても過言ではありません。

そこで、その作業においてAIなどのハイテク技術の活用が注目され、いくつかのAI技術を用いた創薬研究が試行されています。

新規医薬品開発のプロセスにおいて、すでにAI技術は活用されていますが、我々FRONTEOのAI技術は、論文などの言語解析AIにより、開発プロセスの初期段階である探索研究において、ノンバイアスで効率的にターゲット候補化合物を探索する事のできるプラットフォームとしてすでに活用されています。

論文解析を行う上で鍵となるのは自然言語解析技術です。AIにより専門性の高い医学論文の膨大なテキスト情報をベクトル化し、文書・単語間の関係性を数値化する事で、多様な疾患に関する発症メカニズムの解読を瞬時にかつ客観的に行う事ができます。

このような技術をFRONTEO自社のデータサイエンティストや創薬研究者、さらには医療ビジネスのエキスパートが活用し、新薬開発において重要となる候補化合物の科学性評価と事業性評価を同時に適切に行う事で、世の中に埋もれている多くの化合物の中から、新たな新薬候補を発掘し、新しい新薬開発への道筋を作っていきたいと考えております。

この活動はまさに、AIによるドラッグマイニングと言えるでしょう。

埋もれている化合物を新薬候補に変えていくAIドラッグマイニングは、膨大な時間とコストを必要とする現在の新薬開発に代わる画期的な創薬エコシステムになると確信しております。

【著作権は、守本氏に属します】