第719号コラム:湯淺 墾道 副会長(明治大学 公共政策大学院ガバナンス研究科 教授)
題:「議会のデジタル化とデジタル・フォレンジック」

都道府県議会の議長により組織される都道府県議会議長会は、都道府県議会デジタル化推進本部と都道府県議会デジタル化専門委員会を設置し、4月22日(金)にデジタル化推進本部に対して専門委員会が都道府県議会の委員会のオンライン化に関する報告書や、「オンライン委員会について-開会に当たって留意すべき事項-」を提出した。報告書類は下記からダウンロード可能である。
http://www.gichokai.gr.jp/kenkyu/index.html

国会に関しては、憲法第56条第1項が定める両議院への「出席」の概念について、令和4年3月3日の衆議院憲法審査会において、「緊急事態が発生した場合等においてどうしても本会議の開催が必要と認められるときは、例外的にオンラインによる出席も含まれると解釈することができる。」と協議決定して、同月8日に衆議院議長等に報告された。

これに対して地方公共団体の議会については、現時点では、令和2年4月30日の総務省行政課長通知において、オンラインによる本会議は開くことができないとされている。他方で委員会はオンラインによって開くことはできないとは解されていないため、オンライン開催のための条例を制定する団体が増えており、実際に開催した例もある。

ところで議会のデジタル化というとき、本会議や委員会のような場面を想定しがちであるが、議会の活動領域はそれだけではない。そのデジタル化にあたっては、ビデオ会議を導入すればそれで済むというわけではないのである。

このため、議会のデジタル化にあたっては手続や事項ごとに、次のような技術の利活用の検討が必要と思われる。

議決:電子投票
選挙:電子投票
検査:デジタル・フォレンジック技術の利用
監査の請求:デジタル文書の提出による請求(電子署名やタイムスタンプ等の請求したことのデジタルな証跡)
意見書の提出:デジタル文書の提出(電子署名やタイムスタンプ等の提出したことのデジタルな証跡)
調査:デジタルドキュメントの保全と収集、デジタル・フォレンジック技術の利用
同意:電子投票
承認:電子投票
請願・陳情を受理し処理:デジタル文書の受付(電子署名やタイムスタンプ等の受理したことのデジタルな証跡)、処理報告、書類の受理:デジタル文書の受付(電子署名やタイムスタンプ等の受理したことのデジタルな証跡)

なお請願については、現時点では地方議会に請願する者は地方自治法第124条の規定により、議員の紹介によって請願書を提出しなければならないとされており、請願書は文書でなければならないとされているが、ここでいう文書が紙に限られるのかについても、検討が必要であろう。なお本会議や委員会以外の議事手続のデジタル化とデジタル・フォレンジック利活用については、報告書の資料編に収録されている(74~75頁)。
http://www.gichokai.gr.jp/kenkyu/pdf/report_030625_siryohen.pdf

その他、デジタル・フォレンジック技術の利活用の可能性があるものとしては、100条委員会が挙げられる。

100条委員会とは、地方自治法第100条に基づき設置される調査委員会のことであり、自治体の行政について直接調査する権限を持つ。議案に関する事項の基礎的調査、政治疑惑や汚職・不正等に関する政治調査,重要事務の執行に関する調査が行なわれ、調査方法は選挙人その他関係人に対する出頭・証言・記録提出である。

しかし、デジタル化の進展に伴い、訴訟における手続と同様に、記録提出にあたって電磁的記録の保全が必要とされたり単に電磁的記録を提出しても可読性がなかったりするため、デジタル・フォレンジックが必要とされる場面が増えるであろう。

このように、議会のデジタル化はデジタル・フォレンジック技術が活用される新しい領域として注目される。

【著作権は、湯淺氏に属します】