第732号コラム:宮坂 肇 理事(NTTデータ先端技術株式会社)
題:「ニューノーマル時代のコミュニケーションとセキュリティ その後」

昨年の東京2020五輪(オリンピック・パラリンピック)が開催中に本コラムの執筆をさせて頂いた。1年間の延期など異例尽くめの大会が開催される中、サイバー空間上もいろいろな事象は観測されてはいたが、大きな問題なく終わっている。一方、新型コロナ関連はまだまだ終息する様子がない。会社への出勤も再開し、街中に賑わいを見せている今日現在ではあるが、リモートワークを中心とした組織の活動は続いている。昨年昨今の課題の一つであるコミュニケーションとセキュリティの一考察を取り上げたが、今回はその延長で”エンゲージメント”を関連させて考察してみたい。

新しい働き方としてリモートワークの活用が普通になっている。リモートワークではコミュニケーションをとる手段として Zoom, Microsoft Teams, Webexなどのオンライン会議ツールやチャットなどを使用して簡単な会話をしているのが通常となっている。リモートワークにおける主な2つの課題認識をした。
 ・リモートワークによる業務進捗や従業員の管理
 ・リモートワークによるセキュリティの問題
人的なセキュリティ対策の一つとしてある”衆人環視”がリモートワーク環境では難しく、セキュリティマネジメントの課題の一つとしてとりあげ、従業員とのコミュニケーションが重要であるとした。それから一年を経て、各々の組織でもバーチャルオフィス、リモート会議を活用した 1on1 等々により管理職等と従業員、従業員同士のコミュニケーション活性化を検討し実施していることかと考える。

 さて、数年ほど前から”従業員エンゲージメント”という言葉をよく聞くようになってきた。従業員エンゲージメントは定義自体を組織等が定める必要があるということであるが、一般的には以下のような定義をされていることが多い。
 「従業員が会社等組織の方向性を理解かつ共感し、自発的に貢献したいという意欲」
組織等から見た視点もあるが、従業員自身の会社への信頼感と貢献意欲を計る指標でもあると言う。米国調査会社のアンケート調査によると、日本企業の従業員エンゲージメントは世界のなかでも最低水準であるとも言われている。近年、”従業員エンゲージメント”の取り組みを日本の企業等でも増えているのがよく聞く背景にあると考える。

 セキュリティ対策は「技術・物理・人」の3つの種類に対して予防、抑止、検出、対応という機能を実装することが基本となる。特に、最後は”人が砦”でもあり、「人的なセキュリティ」が重要とされている。組織等の人的なセキュリティ対策では、情報セキュリティポリシー、セキュリティ関連の規程を策定、これらに基づくマニュアルや手順書を整備し、従業員等に啓発や教育、さらに、訓練などを行うことが多く、従業員等のセキュリティ意識向上を目的とした取り組みをすることが一般的である。これらの啓発、教育等の活動はともすると「ルールだから絶対に守ること」、「ルール違反をしたら処罰される」とか、組織が従業員をコントロールする傾向が強くなることが多い。法律やルールを遵守することは当たり前であるので、これらの営みを否定するものではない。

 今回は人的なセキュリティを”従業員エンゲージメント”の観点から一考察してみたい。組織等が継続的に発展するためには適切な経営戦略のもと、経営を行うことが求められる。経営戦略のなかでは「セキュリティ」も重要な要素となることは自明である。サイバーセキュリティ経営戦略のもと、”最後の砦”である従業員に浸透するためには、”従業員エンゲージメント”を考慮したセキュリティ活動が必要になると考える。例えば、「セキュリティ対策はなぜ行うのか」、「なぜ従業員が遵守して行動しなければならないのか」、「組織として継続・発展するためにはなぜ必要なのか」などを従業員に経営戦略の一つとして理解してもらうこと、さらに方向性について共感してもらうことがとても重要である。この営みを行うことで、従業員等は組織等への貢献意欲から”自発的”にセキュリティの日常的な活動を行えるようになるのではと考える。

 日常的に経営者や管理職職場を”うろうろ”しながら従業員と対話し、健康状態や業務進捗などを把握し、メンバとの関係性を強くするための”ウォーキングアラウンドマネジメント(MBWA:Management By Walking Around)がリモートワークでは難しい。MBWA で経営者や管理職等と従業員の日常的な会話により、場面場面で組織等の戦略などを伝え、従業員からの声も聞くことができるので、共感を得やすい手法ではあるが、なかなか昨今の環境では難しい。リモートワークではさまざまな従業員等の課題がある。職場で机を並べていると状況が把握できるとともに業務の過負荷状況も把握しやすい。リモートワークでは、孤立感が発生しやすくなるとともに、業務の偏りも発生することになる、人間関係や信頼関係が薄れ、ひいては会社への帰属意識なども低下する恐れがある。組織等はバーチャルオフィスの活用等、お様々な工夫をしていることかと思うが、バーチャルオフィスなどの活用も進んでいる。機会があれば、従業員エンゲージメント、バーチャルオフィスとセキュリティについて考察してみたい。

 ”従業員エンゲージメント”はセキュリティの観点からも経営課題として重要な要素であると考えられ、リモートワークをはじめとしたニューノーマル時代の取り組みの一つとして考慮していくことも重要であろう。

 なお、”エンゲージメント”に関連しては第395号「ダイバーシティ(多様性)」 熊平 美香監事のコラムも参照いただければ幸いである。

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