第733号コラム:守本 正宏 理事(株式会社FRONTEO)
題:「新国際秩序における経済安全保障と国の関与について」

1991年のソビエト連邦崩壊後、世界のグローバル化に伴い市場経済化が進み、供給網は経済合理性が優先され、今のように複雑になりました。
一方、最先端技術の急速な進歩を背景に民生品と軍事品の区別がなくなり、経済活動がそのまま軍事技術の拡散につながる事態も増加しています。
グローバル化推進派の人々は、反自由主義経済圏を自由主義市場に組み込むことにより、最低限の国際ルールが守られ、徐々に自由主義体制に近づくものと考えていましたが、結局そうはなっていません。
現実には、秩序は守られないまま技術拡散だけが進み、広がったサプライチェーンや株主支配ネットワーク、研究者同士の人的ネットワークに大きなチョークポイントリスクが生まれてきました。
そこで、新たな世界の秩序を取り戻すため、絡み合ったネットワークを再構築する必要性が生じています。

この再構築を行うには、世界のネットワークを解析する必要があります。ただし、グローバルネットワークは膨大で複雑です。ある半導体企業のサプライチェーンのノード数は10万程度あり、とても人力で行える作業ではありません。
そこでAIなどのハイテク技術を活用し、オープンソースを基に経済安全保障に関わるネットワーク解析をすることが不可欠となります。

今後の戦略を構築する上で、世界を正しく知ることは極めて重要です。ネットワーク解析で世界を正しく知ると、例えば米中は決して完全なデカップリングをしているわけではないことがわかります。付き合うべき部分とそうではない部分を切り分け、共存の道にあることが事実から窺えるのです。この複雑な世界の中では、どのように振る舞うのかを自ら判断し、適切に実行できるようなハイテクインテリジェンスシステムの構築が必要です。

私たちは、まずサプライチェーン上のチョークポイントを把握し、さらに米国エンティティリストやSDNリスト等に収載された企業を確認した上で、必要に応じて代替ネットワークを探し出さなければなりません。また、代替先候補を選定する際には、買収先もしくはチョークポイント企業の真の支配者を知るために、株主ネットワークの分析も必須です。

併せて、これまで経済合理性の観点で行っていたM&Aを、自社のサプライチェーンの強靭性を保つ手段として活用するという考え方も必要でしょう。実際に、ネットワーク解析をすると、サプライチェーン上の重要拠点に投資をしている例が見られます。
企業は当然、経済合理性を追求します。国家安全保障という観点からは、海外重要拠点の買収等を国がガイドしていくという方法も真剣に検討すべきでしょう。

新たな秩序を取り戻すためには、ハイテクインテリジェンス基盤による国家の関与は避けられないと考えます。

【著作権は、守本 氏に属します】