第745号コラム:辻井 重男 理事 顧問(中央大学研究開発機構 機構フェロー・機構教授)
題:「メタバースに向けて 三止揚・MELT-Upしよう」

前回(2022年6月)の続きになりますが、私は、昨年(2021年)、
「フェイクとの闘いー暗号学者が見た大戦からコロナ禍まで(コトニ社)」
を出版しました。それに対して、加藤尚武 哲学会元会長から
「ヘーゲルの墓の前で読んであげたい」との超過大な評価を頂きました。何故そこまで?
「ヘーゲルの墓に前に穴を掘って入らねば」とも思ったのですが、待てよ、いくらヘーゲル(1770~1831)でも,メタバースはご存じなかった。
情報技術の身覚ましい進歩により、利便性・効率性は飛躍的に高まり、情報の伝達・保存、表現等の自由は著しく拡大しました。また、国家に従属すると見做されがちだった個人の権限が、20世紀後半から尊重されるようになりました。これに伴い、安全で住み易い公共的基盤が益々大事になって来ました。
そこで、私は、20世紀末から、図のように、三止揚・MELT-Up を、社会を視る基軸の据えるようになりました。三止揚とは、上に述べたように、自由の拡大、個人の権利、公共性という、矛盾しがちな3つの理念の高度均衡化を図ることです。そのためには、Management(経営・管理), Ethics(倫理、人間の内面)、Law(広い意味の法制度)、Technology(技術)を相互に連携・相乗させることが必要です。通常言われているヘーゲル哲学の正反合の繰り返し2元論では済まなくなりました。

私が暗号の研究を始めたのは、1980年前後、現代暗号の勃興期で情報セキュリティの基盤として持て囃され、大蔵省の局長さん達に講演し、「素数ってそんなに沢山あるのですか」と玄人裸足の質問を受けたりしました。公開鍵暗号が、IoTの真正性保証・本人確認の社会基盤になった現在、社会の関心は薄れました。世の常ですね。
1990年代、私は逆に、「暗号=情報セキュリティのように言われるが、暗号だけでセキュリティが保てるわけがない。セキュリティ保険等も必要だろう」と考え、ある学会誌の招待論文に「情報セキュリティ総合科学の構築」を提案しました。2004年度に設立された「情報セキュリティ大学院大学(IISEC)」の初代学長を依頼された際、大学の理念を「三止揚・MELT-Upを思考基盤・実現方策とする情報セキュリティ総合科学」に決めました。
今、世界は、「現実世界」から「現実世界×仮想世界」へと大きく広がろうとしています。
IoTは、現実世界と仮想世界を繋ぐ何百億にものぼる接点になり、また、経済安全保障の基盤でもあります。それらの真正性保証はIoT・メタバースのアバター等で益々、生命・財産に関わるようになるでしょう。
私は、現在、「一社 セキュアIoTプラットフォーム協議会」理事長としてIoTの真正性保証に、また、個人的研究としては、本人確認の完全性・健全性・零知識性の達成について
三止揚・MELT-Up、そして情報セキュリティ総合科学の立場から考えています。

【著作権は、辻井氏に属します】