民事裁判情報のオープンデータ化については、このコラム欄でも2回取り上げた。
 最初は、新型コロナの感染拡大が日本でも始まった当初の2020年2月に、「裁判記録のオープンデータ化?」と題するもので、民事裁判を中心とする司法IT化の議論から第一フェーズの実践が始まろうとする機会に「裁判のオープンデータ化にあたっては、プライバシーや営業秘密への配慮をしつつ、100%に近い公開を行う必要がある」と述べた。
 https://digitalforensic.jp/2020/02/24/column603/

 その後、民事裁判IT化の立法に少し遅れて、日弁連法務研究財団(JLF)の民事判決オープンデータ化検討PTが提言を公表し、これを受けて法務省が「民事判決情報データベース化検討会」を設置しようという段階の2022年8月に、「民事判決のオープンデータ化?」と題するコラムを投じた。
 https://digitalforensic.jp/2022/08/01/column728/

 この法務省検討会も、2023年12月の会議で取りまとめに向けた議論が行われ、その段階の事務局案として「民事判決情報データベース化検討会取りまとめ(素案)」が公表されている。
 https://www.moj.go.jp/content/001409683.pdf
 
 それによれば、裁判所から判決データが情報管理機関に送られ、情報管理機関がこれを仮名化した上で、利用者に有償で提供すること、その利用者の中でも判例雑誌・データベース事業者は、その提供を受けた判決データを加工して付加価値をつけ、一般の利用者に提供することという大枠については固まったようである。
 細かいところは検討会で結論を出すよりも実務にあたる情報管理機関が実際の運用方針として定めるところに委ねざるを得ないが、ともかくこれまでは年間に1万件から2万件の程度しか公表されてこなかった判決(将来的には決定・命令も含む)データが、今後は年間22万5千件以上(令和4年司法統計年報による)公開されることになり、現在公開されている裁判例のすべて(例えばWestlaw Japanでは2024年2月13日時点で322,282件)と同じ量の裁判例が新たに1年半ごとに追加されていく計算になる。
 このような量的な激増は、その利用の仕方にも当然大きな変革をもたらすものと考えられるが、従来の公開量と提供の仕方(紙媒体、PDF中心、あるいは有償データベース)を前提にした裁判例の利用に慣れた頭では、なかなか新しい利用のシーンを想像することができない。
 上記の法務省検討会とりまとめ素案では、データの組み合わせや編集により新たな価値を生み出し産業や社会に新たな知見をもたらす契機になるとか、AIによる訴訟結果予測や法律文書作成支援ツール開発につながるとか、さらに裁判例のより精緻な統計分析が可能になるとかといった見込みが示されている。
しかし、判決データの原則全件デジタルデータ提供によりもたらされる利用可能性は、まだまだこんなものではないようにも思うし、AI技術を含むデジタル技術の発展は、実際にその発展を進めている人々をも巻き込んだ検討の場があってこそ、豊かに花開くものと考えられる。
 こうした利用可能性の検討は、制度の細かい仕組み作りが完了していない段階でも必要なことである。というのも、一方では、豊かな利用可能性を前提としてその利用を可能にするような提供方法を制度設計に組み込むということが考えられる。
例えば判決データの提供に際してXML化をするとすれば、その設計は利用可能性との関係で決まってくるべきものである。他方、官報のデジタル・オンライン公開が破産者マップという現在もなお解決できないでいる弊害を生み出したことを思うと、制度設計の段階で有り得べき悪用の可能性も認識し、その対策を事前に施すことが必要である。
 そこで、裁判情報のオープンデータ化にどのような利用可能性があるのかということをテーマにしたアイディアソンを開いてみてはどうであろうか。
 参加者は、法曹三者はもちろんだが、リーガルテックに力を入れている事業者や実務家、そして技術者など幅広い人々が考えられる。デジタルフォレンジック研究会の会員というのは、ここで想定される参加者像にかなりの程度重なっているように思うので、このコラムを読んでくださった方々に、ぜひ検討をお願いしたいところである。
 

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