第263号コラム:手塚 悟 理事(東京工科大学 コンピュータサイエンス学部 教授)
題:「理事就任のご挨拶とデジタル・フォレンジックとの出会い」

去る5月21日開催のIDF第10期総会において、理事就任のご承認を賜りました手塚でございます。何卒よろしくお願い申し上げます。

今回のコラムを書くに当たり、どのようなテーマにするのかを考えておりましたところ、「デジタル・フォレンジック」に最初に本格的に出会った頃のことを思い出しました。あれは、確か2005年の春頃であったと思います。

当時「フォレンジック」という聞き慣れない言葉との未知との遭遇をしたわけですが、ファーストコンタクトをした場合には、全く避けて通るか、あるいは近寄ってじっくり調べてみるかのいずれかが人間の本能であると思います。当時の私は、情報セキュリティの分野で何か新しいものはないかとちょうど探しておりましたので、初めて聞いたフォレンジックという言葉に興味を抱きました。その上、フォレンジックの音の響きも私の脳裏には深く刻まれ、これは一体何なのだと非常に好奇心が湧いてきたのを記憶しております。

 そこで、米国で既に使われているフォレンジックを調査するため、知識もあまりないままに、2006年2月頃海外出張に出かけました。記憶にある範囲で当時の米国の状況について述べたいと思います。

 調査訪問先は、FBIによるフォレンジック調査・教育機関RCFL(Regional Computer Forensics Laboratory)でありました。このRCFLは、当時全米に14か所の拠点をもち、それぞれの管轄する州で起きた事件におけるフォレンジック調査の支援をしていました。私はその中のソルトレイクシティとシカゴの2か所のRCFLを訪問しました。RCFLのメンバは、周辺の州警・市警から人員を集めて構成していると伺いました。

フォレンジック対象は、テロ・DV・児童ポルノ・詐欺・ネット犯罪・殺人等の様々な犯罪でした。対象機器は、当時最も普及していたWindows PCだけでなく、MAC、さらには携帯電話にまで及んでいました。まだiPhoneも発売されていない頃でしたが、当時の従来型携帯電話も対象としていたことには、大変な驚きを禁じ得ませんでした。当時説明いただいた情報では、2004年の全米では、約1300件の犯罪に対するフォレンジック調査がなされ、約2000名へのフォレンジック教育が実施されていたと記憶しております。

以上のような米国の状況を、2006年当時知ることができ、これからはフォレンジックが社会インフラの重要な機能として活用されていくものと確信した次第でございます。

あれから約8年が過ぎ、日本でもフォレンジックという言葉が、デジタル・フォレンジック研究会のお陰で一般に浸透しつつあります。米国ではその後どのように進歩したか、現在の状況を是非とも詳しく調査してみたいものです。どなたかご興味のある方がおりましたら、視察ツアーなど企画してもよいのではないかと思っておりますが、ご賛同下さる方はいらっしゃいますでしょうか。

今回、デジタル・フォレンジック研究会の理事に就任させていただきましたことは、何かのご縁を非常に強く感じております。私も微力ながら、デジタル・フォレンジックの分野で貢献できるように、努力して参りたいと存じます。

何卒よろしくお願い申し上げます。

【著作権は手塚氏に属します】