第402号コラム:「日本語処理解析性能評価」分科会 野﨑 周作 幹事
(株式会社UBIC 執行役員 技師長 クライアントテクノロジー部 部長)
題:「Eメール監査における人工知能の活用」
フォレンジック調査やeディスカバリの支援サービスを行っていると、調査後の再発防止やコンプライアンス強化の施策としてEメールの定期的な監査に関する相談を受けることが多くなっています。いろいろとお話を聞かせて頂く中で、従来のEメール監査はキーワード検索でヒットした内容を監査することが多いが、下記のような状況があり、効果的な運用が難しいという声も聞かれるようになりました。
① Eメール監査はキーワード検索でヒットした内容を監査することが多いが、一般的な単語を監査キーワードとして設定した場合、膨大な量のメールや添付ファイルがヒットしてしまう。平時の監査で多くの人的リソースを監査の為にアサインできずに全てのヒットしたEメールを監査できない。
(カルテル監査の例では、「価格」「見積」「合意」など)
② 膨大なヒットを避けるために、固有名詞などキーワードを絞り込みすぎると重要なEメールがヒットせず、監査対象から外れてしまうリスクが大きい。また、固有名詞などのキーワードは企業の状況に応じて変わる可能性がある為、定期的なメンテナンスが必要になる。結果として、被監査対象部門の事業状況をヒアリングしキーワードをメンテナンスすることに非常に労力を必要とする。
(カルテル監査の例では、固有名詞となる「競合他社名」など)
どちらの場合も運用にはかなりの人的リソースが必要となり、内部監査部門やコンプライアンス担当部門では運用していくのが困難という状況があるようです。
このような声を受けて、当社では人工知能を活用したEメール監査ソリューション(Lit i View EMAIL AUDITOR)を提供しており、そのコンセプトと利点をご紹介したいと思います。
まず初めに、監査で発見したいEメールの内容を「教師データ」として人工知能に学習をさせます。初期段階でこの「教師データ」は大量には必要なく、数通のEメールからでも学習していくことができます。実際のフォレンジック調査やeディスカバリのレビューで発見された、今後監査で発見したい重要な監査対象となるEメールが存在すれば、それらを「教師データ」とすることもできます。
日々のEメールを人工知能が分析し、個々のEメールに対して、人工知能がスコアという形で重要度を判断します。スコアが高い程、人工知能が重要(監査で発見したい)と判断したEメールということになります。全てのEメールにスコアが付くということは、言い換えると全てのEメールを人工知能が判断した重要なEメール順に並び替えることが出来る為、監査者はスコアの高いEメールから順番に内容を確認していくことができます。キーワード検索のようにヒットしたものは全て監査するという必要が無い為、監査にさける人的リソースに応じて運用していくことができます。(例えば、1日あたり100通しか監査する時間が無いのであれば、スコアの上位100通を監査できます。)
監査者は確認したEメールの内容から「重要なもの」(引き続き監査で確認が必要であるもの)「重要でないもの」(監査で確認が必要でないもの)に振り分けを行います。人工知能はこの監査後に振り分けられたEメールを自動学習するので、次の日のEメールに対してはより学習が進んだ人工知能が重要度のスコアを付けていきます。これを繰り返すことにより監査を運用すればするほど人工知能の学習も進み、監査する方が発見したい重要なEメールに高いスコアが付くようになります。監査する方はキーワードのメンテナンスや膨大な量のEメール確認は不要となります。また、人工知能が監査者の代わりに全てのEメール内容を分析していますので、監査の網羅性からも優れていると考えています。
導入されたお客様から「人工知能によるEメール監査がどの程度機能しているのか?」「運用開始からどれくらいの期間で実用的な監査ツールとして稼働できているのか?」といった問い合わせも寄せられています。人工知能というとブラックボックス的なイメージ
を持たれることも多い為、当社では人工知能の成長を可視化する技術を独自開発しました。この可視化技術では、人工知能がEメールに付与したスコアの分布を時系列でマッピングし、その分布パターンから、1.成長初期 2.成長期 3.成熟期 のどの段階にあるかを判断することができます。最終的に成熟期に到達すると、安定したEメール監査機能として稼働が確認できたことになります。例えば、監査で確認が必要な「重要」Eメールが、成長初期においてはスコアが低かったが、成長期においてスコアが上がっていき、成熟期においては人工知能の学習が進んで安定した高いスコアを付与するようになります。このような人工知能の可視化技術への取り組みは、今後企業が人工知能を業務に導入する上で必ず発生するであろう導入の費用対効果や導入効果の明示といった課題解決に必ず必要になるものと考えています。
最後に、これまでのEメール監査の問題点として、監査者、被監査者共に、社員が他の社員のEメールを監視することへの強い抵抗感があるというお話もありました。人工知能をEメール監査に活用することにより、このようなお互いの抵抗感を出来るだけ解消し、不正の未然防止、早期発見に向けて広く利用されていくものと考えています。
【著作権は、野﨑氏に属します】