第407号コラム:和田 則仁 理事(慶應義塾大学 医学部 一般・消化器外科 講師)
題:「医師法第24条」

医師法は、医師の免許、国家試験制度、業務上の義務を規定した法律です。一般の方がメスで人の身体に傷を付ければ傷害罪に問われますが、医師はこの法律に従って行う限り罪に問われることがありません。医師にとってバイブルともいえる重要な法律です。その医師法の24条は以下のように記されています。

第24条 医師は、診療をしたときは、遅滞なく診療に関する事項を診療録に記載しなければならない。
2     前項の診療録であつて、病院又は診療所に勤務する医師のした診療に関するものは、その病院又は診療所の管理者において、その他の診療に関するものは、その医師において、5年間これを保存しなければならない。

診療録(カルテ)の法的位置づけはここに記載されているだけで、診療録の範囲を厳密に定義したものはありません。なお、診療録以外の情報については、医療法の施行規則第20条等において「診療に関する諸記録」の例示として、「過去2年間の病院日誌、各科診療日誌、処方せん、手術記録、看護記録、検査所見記録、エックス線写真、紹介状、退院した患者に係る入院期間中の診療経過の要約及び入院診療計画書」が示され、2年間の保存義務が規定されています。もちろん、これらの法律は紙カルテの時代に作られたもので現在の電子カルテを念頭においたものではありません。

さて、言うまでもなく医療情報システムにはさまざまなデジタル情報が日々蓄積されていきます。古典的な意味での診療録、すなわち医師が診療後に記載する診療に関する事項や、「診療に関する諸記録」は言うまでもなく、実施記録、種々の予約情報、アクセスログ、患者掲示板のメモ、部門システムのデータ、医療従事者に関する情報、診療報酬に関する情報、臨床研究に関する情報など、枚挙に暇がありません。本コラムで手術ビデオについて書いてきましたが、ITの進化とともにネットワーク上で容易に取り扱うことが可能となったこともあり、近年、診療に関する諸記録であるとの見解が主流になりつつあると感じられます。それでは、オペ室内の監視カメラの映像はどうでしょうか。これも主に管理目的に設置されているものですが、当然、患者さんの診療に関する情報も含まれています。室内の人の動きが記録されていますので、例えば医療事故が起きた際、何時何分、誰が何をしていたという重要な情報が記録されているわけです。これが診療の記録だとすれば、いつからいつまでの映像が該当するのか。例えば前日の部屋の清掃・消毒の状況は感染対策上重要ですが、その映像は「診療に関する諸記録」であるのか。考えていくと切りがありません。

最近取り組んでいるプロジェクトの一つに、手術室の多様な医療機器の設定・使用を一元的に管理する情報処理基盤の研究開発があります。ORiNというミドルウェアを活用して、接続されている様々な医療機器を共通の時間軸で記録していくため、サーバーに手術に関するビッグデータが有機的に蓄積されていく仕組みになっています。これまで異なる内部時間でそれぞれ独自の形式で保存あるいは出力されていたデータが一つのサーバーで管理されることは重要な意味をもつものと期待されています。しかしこのような情報は活用されなければゴミの山であるわけですが、その利活用は容易ではありません。一昔前の言葉で言えばデータマイニング、最近の流行りで言えば人工知能ですが、明確な意図をもって解析する必要があると言えましょう。また打ち上げ花火的に解析してみたら面白いデータが出てきたでは寂しいところです。持続可能な形でビジネスとしての出口を描いていくことも必須と言えます。COI(利益相反)がやかましく言われる時代ですが、開示すべきものはきっちり開示しつつ、これまで以上に、医療現場とアカデミアと企業が連携していく必要があります。

このように電子カルテ本体のデータのみならず、周辺の部門システムも含め医療情報の包括的な管理と利活用が求められることは、今更言うまでもありません。現在、法で曖昧に定義されている診療録と診療に関する諸記録は、現在のIT環境を踏まえ、患者さんの権利保護と医療情報の効率的利活用というビジネス的視点から、再定義されるべきものと思います。

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