第41号コラム:向井 徹 理事 (株式会社リアリット 代表取締役副社長兼グループCOO)
題:非常に悩ましいが、嘆いてばかりでもはじまらない!!」

ある会合で「最近、自分はいったい何屋か?よく解らなくなった」という人が多くなっているという話題で盛り上がりました。
IDF会員のみなさんの中にはいらっしゃいませんか?
実は私もそうなのですが、身近な経営者の中にはこのような人が少なからず居ます。

景気の極端なスローダウンが進み、どこの現場でもパートさんの削減や派遣社員切りなどでどんどん人が少なくなっています。そうなると正社員が対応しなければならない業務範囲がグンと増える訳ですが本来の業務が決して暇だったわけではないのですぐに穴埋めができるわけではありません。急いで現場に入ることになった社員は「見たことも聞いたこともない業務」が山ほどあっててんてこ舞い。
たびたびスタックしたり、時には大きなトラブルになったりで四苦八苦することになります。
こういう状態が長引くと体調を壊したり、中には心の病になる人も出てきます。

経営的には100年に一度と言われる非常事態なので現場の人員配置も(売上額)÷(人員)でドライに適正人員を割り出しながら対応せざるを得ないのですが、机上の計算だけで物事をすすめるとビジネスそのものがなかなか上手くいきません。
下手をするとお客様に迷惑をかけることになったり、競争相手に先をこされたりで悪循環になってしまいます。
このように現場では何処も苦しい戦いをしている訳ですが、本社側も大変な苦境に陥っています。資金調達がますます難しい市場環境になってきており、最近は黒字倒産が増えています。
バーンレートが高い企業では、所定の水準に満たない商品販売やサービスを打ち切ったり、事業撤退などの経営判断を迅速にしていかなければ短期間のうちに破綻してしまう可能性が強くなってきます。
このような背景から、景気が悪くなればなるほど企業では一人のビジネスマンに求められる対応範囲が大幅に広がり、案件の検討時間や処理スピードも加速度的に早くなってくるように感じています。
マネージメント層では日々あちらこちらで、「予測できないこと」が次から次に出てくるので、いわゆる「T型人間」として柔軟性を持って変化対応していかなければなりません。
そうこうして走り回っているうちにますます冒頭の「いったい何屋かわからない状態」になっているようです。

さて、前置きがとても長くなってしまいました。すみません(^^)

自分の場合はそもそものシステム屋業としても複数のクライアント企業に出入りさせていただいています。CIO代理的な業務やリスク対策、プロマネなどの実務で現場に入っていますが、クライアント企業に共通する最重要課題は、攻めの視点では次世代システム云々ではなく、「足元のコストカット」にテーマが集中しています。
また、守りの視点ではシステム面では「ウイルス対策」、人的には「現場のロスや違算の防止と不正対策」くらいにしか十分に手がまわらないような状況です。

昨年末から今迄にクライアント企業で聞いた生の声をいくつかご紹介しますと・・・
・「下期からはセキュリティ管理費の予算が全くとれそうにない」
・「派遣切りでセキュリティの実務担当者が全くいなくなった」
・「来年度の情報システム化投資の予算がゼロになる見込みだ」
・「部署移動になるが自分がやっているモニタリングやログ管理といった業務を引き継ぐ後任者がアサインされていない」
・「予算削減の関係でソフトウェアのラインセンス更新ができない」
・「ISO 27001の継続審査の予算がないので受けないことになった」
 
など、ネガティブを通り越してかなり深刻な話しばかりですが、「ない袖は振れないという現実」が重くのしかかっています。
私自身もこの業界でかれこら20年以上お世話になっていますが、100年に一度の大不況であれば不思議ではありません。
ITコンピュータ雑誌やビジネス情報サイトの記事などでも、現場が大変困っていると言う話をよく耳にしますが、実態は「困る人さえ現場から居なくなっている」という状況になっているのではないでしょうか。
しかも、一定水準の危機管理、リスク管理が求められる上場企業の多くが似たような状況になっているのです。

私も業界人ですが勝手な私見を言わせてもらえば、情報セキュリティマネジメントにも、IT統制にも、フォレンジック対応にも労力と費用がかかり過ぎていることは大きな問題だと思っており、大いに悩んでいます。
徹底したローコストオペレーションが求められている中で企業は一体どう対処すればいいのでしょうか?また、ベンダー側はどのような製品やサービスをどのようなビジネスモデルで提供すれば良いのでしょうか? これらのテーマについては「緊急シンポジウム」でも開いて真剣にディスカッションする必要があるのではないでしょうか?

いずれにせよ、出口が見えない未曾有の不況が続く中で、現代社会に必要な最低限の仕組みを構築したり、維持できないことは大問題であり、しばしばどうしようもない焦燥感に襲われてしまいます。非常に悩ましい問題です。
でも、悩んでばかりいても始まらないので、「あっ!!と驚くようなイノベーションを生み出す」とか「公的機関からウルトラダイナミックな支援策を引き出す」というような事につながる活動ができたらいいなーと妄想することもある日々を過ごしています。