第42号コラム: 萩原 栄幸 氏(ネットエージェント株式会社 取締役)
題:「最近のネット記事投稿で気がついたこと」
縁あって昨年11月からITmediaに投稿記事を毎週掲載させて頂いている。思えば週間記事というのは以前私がまだペンネームを書籍ごとに多用していた時期に金融機関であれば必ずといっていいほど購入されていた「週刊金融財政事情」の「情報セキュリティ入門」20回シリーズ以来である。(当時のペンネームは山岡俊一)ただし、実際に行って気がついたのだが「紙」と「ネット」の違いに今更ではあるがびっくりした。
当時は原稿を作成後たとえ週刊とはいえその後校正、版下確認など何回かの確認作業がありやっと印刷という感じであったのでどんなに原稿が遅れても印刷所の持ち込み3日前くらいでないとその他の作業が完了しなかった。ところが現在のネットはどうか・・・
びっくりしました。確認作業は全くなし。私が原稿を書くのが遅延しても催促の電話もない。黙っていたら投稿記事がアップする火曜日の早朝の前日頃にやっと「原稿まだですか?」という問い合わせがあった!つまり今まで必至に守っていた「原稿はアップの1週間前に必着のこと!」というのがめちゃくちゃに「さばを読んで」いたのである。
そしてその原稿そのままではネットに掲載出来ないので編集者の方でネットに掲載した時に読みやすくするために「副題」の作成、長い文章のカット、誤字脱字の修正、小見出しの作成などなどの作業を経て投稿者の確認を待たずアップされる。どのネット記事もスピードが重視されるので週刊記事でも投稿者が確認作業を行う例はあまりないとの事。
よってネット記事ではいつもある程度の「怖さ」が付きまとう。つまり編集者の誤解による文脈が微妙に違ってしまったり、結論の部分がカットされ、投稿者にとっては他愛もない箇所が大きくクローズアップされていたりという類である。筆者も最初は相当戸惑ったものだが、直に慣れ逆にこの方が生産性が高いと思うようになったのである。その分リスクを抱えながら・・・
それでもネットのタイムリー性は捨てがたい。特に他の大手サイト(yahoo,msn,mixiなど)で記事が紹介されると、とたんに「アクセスランキング」が急上昇してそれぞれのサイトのコメントを見てすぐに読者の意見が反映されて自分もすぐに参考することが出来るという素晴らしい仕組みがある。
冒頭にも記述したが昨年11月からの週刊なので既に14回程度の連載となり2月末までの契約まであと2,3回となったがこの経験で一番学んだことがある。
それは自分としては常に世間を知り、今のニーズがどこにあるのかが良く判っており、その結果としてセミナーの人気度は常にトップクラスを維持しているという・・・とは全くの幻想で結果の数値としては多少人気があるかも知れないが実はニーズについては全く理解していなかった・・・というものである。こういうところに気がついた点に関しては素直に編集者の方に讃辞を送りたい。本当に感謝している。
この企画を決めた当初、題材は自分で選択して構わないとおもったのだが編集者がニーズを調べて題材を案として提示するという。そこで示された題材を見て、私は「失礼ながらこんな初歩的な内容でITmediaの読者が満足するとは思えない。」「こんな話題は古すぎる。私のセミナーでも10数年前から言い続けて、最近ではあまり言わなくなった」こうお伝えしたものだ。如何に傲慢で如何に世間の方々との認識のレベルに差があったのか・・・そう思い知らされるまで1か月半しか時間を要さなかったのである。
12月中旬・・・何と私の投稿記事(いままでで8回連載していた)の全てが1000を超えるコンテンツが掲載されているITmediaのアクセスランキングトップ30に入ったのである。しかも1位から3位までは全て独占してしまった・・・書いた本人は「初心者すぎてお話にもならないけど啓蒙活動としては大事だから」と思っていた他愛もない記事が大手の紹介記事内でもすべてに対してアクセスランキングが1位となり、コメント数はその時全ての記事合計で確認しただけで10000を超え2チャンネルにはこの記事のための板がいくつも出来、しかもそれぞれが数百程度の意見が付いていたのだ・・・
嬉しいということは全くないといっては嘘になるがそんなことより「なぜこんな低レベルの記事で騒がれるのか?」という驚きの感性が遥かに嬉しいという感情を上回っていた。
それぞれの記事は皆アクセスランキングで3位以内に入ったのだがその中で特にブレークしたのは
1:データは消えない――メモリカードやUSBメモリに潜む落とし穴
http://www.itmedia.co.jp/enterprise/articles/0811/08/news002.html
2:Winny利用の果て――家族崩壊した銀行マンの悲劇
http://www.itmedia.co.jp/enterprise/articles/0901/13/news010.html
であった。
1つ目はSDカードなどのメモリカードも実は消去しても内容は消えないという単純なことである。でも様々な方々から「それは知らなかった!」「社内で対応策を検討中」という前向きのご意見を多数頂きました。
2つ目はWinnyの情報漏洩を事件だけにしているサイトが多いのでその後の当事者たちの苦悩についてお伝えしたもの。
これの反響はもっとすごく実は現在でもアクセスランキングに時々上位に顔を出している。またいくつかの大手企業様から社内教育で紹介、採用したいので許可を頂きたいとの個別メールが届いており、無許可で採用されている会社も多いという情報から相当な会社で注目を浴びている。
ここで皆様にもっとも言いたいこと、それは一言でいうなら「初心忘れるべからず」である。自分でも「私は大丈夫。常に周りの意見を取り込みどんな年齢になってもいつも吸収し素直に耳を傾けている」そう思っていた事実に愕然とした。
本当にこの言葉の意味を考え、どうしてなかなか情報セキュリティの意識が一般の方々に浸透しないのか、と常に創意工夫をする重要性と初心者が求めている情報を加味して今後とも情報セキュリティ、フォレンジックという要素で活動していくことの楽しさを最近実感しているのである。