第92号コラム: 伊藤 一泰 理事 (株式会社インターセントラル 常務取締役)
題:「企業活動における信頼性」

企業活動における信頼性の評価を論ずるケースが増えている。筆者の経験では、昔は信頼性というより「信用」の評価が一般的だった。すなわち、金融機関における与信業務(融資)の際には、企業の「信用」(収益力や財務内容など)を審査するのが主眼であって、信頼性の審査はあまり重要視されていなかった。せいぜい、経営者の風評や監督官庁に対し登録・免許がきちんとなされているかを確認するぐらいであった。

 

しかしながら、近時は、数字に置き換えにくい評価要素が増え、「信用」から信頼性への審査主眼のシフトが見受けられるようになってきた。ここでは、ひとつの参考事例として、「環境格付」[1](環境に配慮した経営の評価)について付言しておきたい。この場合、当然ながら、「信用」に問題ない前提で、さらに上乗せで、環境問題への取り組み姿勢などの企業活動に対して、信頼性の評価が行われている。いわば、CSR(企業の社会的責任)を評価するようなものである。

 

信頼性という言葉に関し、日本企業に最も馴染み深いのは「QC」に代表される品質保証活動である。日本発祥の「カイゼン」は、トヨタ生産方式の基本概念であるが、日本の製造業の経営方針や企業風土を反映したものである。製品の輸出や現地生産を通じ、この概念が全世界的なムーブメントに拡大した。しかしながら、その「カイゼン」の元祖であるトヨタが、アクセルペダルのトラブルに見舞われて、企業の信頼性に傷がつく事態に陥ったのは、まさに皮肉としか言いようがない。

 

少し前を振り返ると、社会保険庁の不祥事が、年金制度全体の信頼性を揺るがしたのは記憶に新しい。また、JALの法的整理の問題についても、原因の核心にあるのは、社会的な信頼を損なってしまった企業体質にあるといえる。このほかにも企業の信頼性がクローズアップされた事件は多い。原子力発電所における事故隠しやデータ隠しなどもしかり。食品偽装や建築偽装問題もしかり。これらの問題について、日本の企業全体が、品質管理の重要性や社会的な責任を再認識すべきだという点では誰も異論がないと思う。

 

しかし、信頼性の尺度をどうするのか、審判役は行政だけでいいのか、等々の点になると疑問が多い。特に、その信頼性を誰が評価するのか(するべきなのか)という点が重要である。行政なのか、マスコミなのか・・・。もちろん彼らに担ってもらうべき事柄が多いのは事実であるが、もっと広範な評価体制が必要だと思う。本来は第3者委員会を作り、行政・学識経験者・民間の知恵を結集するのが妥当と思われるが、その場合には、迅速な調査を行うための「機動性」が発揮できないという問題がある。なかなか一筋縄では行きそうもない。

 

社会的に重要性の高い業種であれば、一般企業に比べ高い信頼性が要求されるのは当然であるが、法的に問題がないような事柄について、どこまでの責務を負わなければならないのか疑問なケースもある。一方で比較的新しい産業では、スピードや安さを売りにするあまり信頼性を重要視しない傾向が見られる。IT産業(情報通信・ソフトウエアなど)もその初期は信頼性を重要視されていなかったが、今ではれっきとした重要インフラであり、信頼性に対する社会の要求水準も高まっている。

 

ITの活用は、ユーザ企業にとっては、状況変化に即応し経営のスピードアップを実現する手段として欠かせないものとなっている。しかしながら、そのIT産業自体も、時代の大きな流れの中で、急速な技術革新を求められ、スピードがスピードを呼ぶような現象が起きている。このような状況下、検証不十分な製品やサービスが「β版」の名のもとに一般ユーザに提供されているのは、経営方針として甚だ疑問である。

 

スピードがスピードを呼ぶ環境の中で、ユーザ企業は、常に最新のIT技術をフォローし、経営の変化に対応したシステム開発し運用し続けていかなければならない。その結果、企業の情報システム部門は、多額の予算確保を迫られることになる。ヒト・モノ・カネに加えて、情報が重要な経営要素となった今日、情報システム部門の重要性は増大する一方である。その予算については、大企業であっても経営全体の観点から見直すべき段階に入ってきた。中小企業においても、業務合理化の目的だけで採用されてきた部分最適型のシステム(会計・給与など)から、経営戦略に直結し、全体最適が求められる経営管理システムへとシフトしていく必要がある。このような点からも、IT産業には、製品やサービスについて、今後ますます信頼性を高める努力を期待したい。

 

昔のように、仕事は全くのベンダー丸投げで、我々は結果の検証さえすれば「事足りる」というのは、ユーザ企業にも許されない時代となったが、IT産業にたずさわる人たちには、システムの品質や信頼性を確保し、エンドユーザに責任を負うのはあくまでも自分たちであるという認識が重要である。これまでのベンダーとユーザの間に蔓延していた「ぬるま湯的な慣行」やあいまいな業務分担の枠組みについて、徹底的な見直しが求められていると言うことも忘れてはならない。

 

経営戦略に基づいた情報システムを活用するためには、経営レベルで円滑な運用を維持・管理していく必要がある。そのためには、Plan(システムの企画)→Do(システム開発・運用)→Check(信頼性や投資効果の評価・検証)→Action(改善の実施)のPDCAライフサイクルを情報システムにも適用して、その導入から運用、管理、評価、改善、更新までを一連のライフサイクルとして捉え、変化に順応できる体制を整備することが重要になる。IT産業にも、情報セキュリティなどの個別的な品質保証(プライバシーマークなど)だけではなく、企業全体としての包括的な品質保証という信用性の尺度が必要となっている。近いうちに、IT産業向けに新たな格付制度ができるかもしれないと思うのは筆者だけであろうか。

 

【著作権は、伊藤氏に属します。】

 

[1]「環境格付」の詳細については以下のURLを参照されたい。

http://www.dbj.jp/solution/social/enviro/e_finance.html