第238号コラム:守本 正宏 理事(株式会社UBIC 代表取締役社長)
題:「リーガルプロセスにおけるバリューチェーンの変化」

 リーガルプロセスには証拠もしくは証拠とまでいかなくてもさまざまな状況における判断の材料としてのドキュメント情報が必要となることがあります。これまでは、あらゆるリーガルプロセスに関しては弁護士による作業に非常に価値がありました。なぜなら法律の専門家による分類、選択、判断が法的対応をするためには不可欠だからです。バリューチェーンのほとんどは法律事務所内にありました。

 しかしながら、最近はバリューチェーンが変化してきました。ITの発達により、企業のもつ情報のほとんどが電子データになったからです。特に書面情報が以前の時代に比較して電子データの情報量が圧倒的に多くなったことと、その取り扱いが高度に複雑になっていることによります。いまやハイテク技術がなくては、特に大量の電子データをもっている企業においては訴訟も戦えない時代になっています。
そしてITが発達するにつれ、高品質、高速転送技術などが進み、その容量は益々肥大化してきました。それに加え、暗号化技術の発達やさまざまなアプリケーション、データベース、ソーシャルネットワークの利用拡大等、その取扱いの複雑さも益々増大してきました。

 多くのリーガルプロセスのなかで最もコストがかかり、時間と労力を必要とする作業の一つがドキュメントレビューと呼ばれる作業でしょう。ディスカバリ作業の中でも全体費用の50~70%も占めると言われています。期間も作業によって数週間から数年かかるものもあります。ファイル数にすると数万ファイルから多いときは数百万ファイルを人が閲覧して選別しなければならないからです。そもそもなぜこのような作業が必要なのかというと、キーワード検索やクラスタリング、コンセプトサーチといった従来の技術だけでは本当に正確に選別することができないこと、そして最終的には人が確認しなければいけないからです。人の判断がどうしても必要になるからこそ、費用、時間、労力をかけてでも人によるドキュメントレビューが行われているのです。

 しかしながら、そのようなあまりにも単純な作業をこれ以上何も改善せず続けることは、どんどん便利になっていく世の中の流れに反しています。やはりここでもハイテク技術が膨大なドキュメントレビュー作業に革命を起こしつつあります。それがPredictive Codingです。簡単に言うと人が判断した選別方法を学びながらコンピュータが選別していく手法です。この画期的な方法は、本格的導入はまだ進んでいませんが、判例もすこしずつ出てきて今後の主流になることは間違いないと考えています。人でしかできなかった部分もコンピュータがとって変わるようになります。ただし、すべてを置き換えることは無理で必ず人は関与します。たとえばファイナルレビューなどはパートナー弁護士が実施しなくてはならないのは間違いないでしょう。

 いづれにしてもテクノロジーがリーガルプロセスをリードしていくという流れは今後も進んでいくことは間違いないと私は考えています。レビューツールやPredictive Coding等になってくると、もはや、どんなにITに詳しい弁護士でも知識とフリーツールだけでは対応ができなくなっています。費用面を抑え、高い品質を保つためには、システムの開発力とサービス力を融合した総合力が不可欠です。
益々複雑化する作業に関してはそのノウハウはリーガルテクノロジーを行うベンダーに蓄積されてきています。

今後は、弁護士はその専門性を生かした業務に専念し、証拠等の取扱いは専門のベンダーが担うことになります。すでに訴訟大国アメリカでは分業化がすすみ、Legal Process Outsourcing(LPO)という業界が確立しています。そもそも米国ではドキュメントレビューのうち、最終的に弁護士が見る以外は大手法律事務所の弁護士が実施することはほとんどありません。ほとんど場合はLPOが担います。そして最近はドキュメントレビューでさえもITの力、Predictive Codingで解決しようとしているのが訴訟大国米国の流れです。
 残念ながら、日本、韓国などは国内の法律事務所の弁護士がドキュメントレビューを実施しています。

 企業としては、業界の動向と転換しているバリューチェーンをよく理解し、どんな専門性を持った人をどこで使うと適切で効率があがるのかを見極める必要があると考えます。弁護士に任せればすべてうまくいくという時代は、少なくとも証拠・資料を取り扱う作業においては終わりを告げようとしています。

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