第296号コラム:石井 徹哉 理事(千葉大学大学院 専門法務研究科 教授)
題:「児童ポルノの拡散をいかに防ぐか」

1 現在開会中の国会に提案されている児童買春、児童ポルノに係る行為等処罰及び児童の保護に関する法律の一部を改正する法律案では、児童ポルノの所持又はこれに係る電磁的記録の保管(以下「児童ポルノの所持等」とする)が禁止され(6条の2)、自己の性的好奇心を満たす目的での児童ポルノの所持等を犯罪化(新第7条1項)することが提案されています。それとともに、同法律案では、プロバイダや掲示板管理者等インターネット関連事業者一般に対して、児童ポルノの拡散防止のために、捜査機関への協力、その管理権限に基づき児童ポルノに係る情報の送信を防止する措置その他インターネットを利用したこれらの行為の防止に資するための措置を講ずる努力規定(14条の2)を設置している。これは、附則において、インターネットによる児童ポルノに係る情報の閲覧制限について、3年をめどとして、技術開発の状況等を勘案しつつ検討を加え、その結果に基づいて必要な措置が講じられるものとしている(2条2項)ことから推察すると、ブロッキングを含むものと想定しているものでしょう。

2 このような改正法案のあり方は、児童ポルノの拡散を防止する(かつそれとともに児童の権利を保護する)という視点から見た場合、ちぐはぐな印象を持ちます。
まず、児童ポルノ所持等の犯罪化に関する点ですが、犯罪成立要件として「自己の性的好奇心を満たす目的」を要求しています。これは、法律案の提案者によると、「『警察の捜査、通報受理又は国際捜査共助の過程における警察職員又は鑑定受託者による所持』や『インターネット・ホットラインセンターの業務やフィルタリングソフト開発の過程での所持』など、社会的に相当と認められる場合があることから、そのような場合を除く趣旨」であるとされています(高市早苗・早苗コラム「『児童ポルノ禁止法改正案』Q&A」【答6】https://www.sanae.gr.jp/column_details621.html )。しかし、そこにあげられている場合除外するだけであれば、従来から刑法等で見られるようにたんに「正当な理由なく」などとして、違法阻却事由の不存在の場合の処罰することを明示すれば足りるはずです。
あるいは、嫌がらせ目的で児童ポルノを送りつけられた場合、悪意あるプログラム等によって勝手に児童ポルノがダウンロードされた場合を除外する趣旨なのかもしれません(高市・前掲【答5】参照)。しかし、そもそもこのような場合、直ちに削除すれば、所持したといえないでしょうし、送付された事実またはダウンロードされた事実を知らなければ、故意がなく、やはり犯罪の成立が否定されるはずです。
つまり、「自己の性的好奇心を満たす目的」は、当罰性ないし要罰性に欠ける上記のような場合を除外するための要件としてなんら機能していないことになります。同時に、児童ポルノを単に所持しているだけの状態は、児童ポルノの拡散及びそれにともなう児童に対する権利の侵害可能性という観点からみても、極めて遠いところにあり、それだけでは、当罰性をもつものといえないでしょう。現行の児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律7条2項後段が提供目的での児童ポルノの保管を処罰していますが、これは、拡散可能性の高い状態での保管ということで提供行為という拡散による法益侵害性を目的に取り込むことによって当罰性を具備させていることからも看取できます。
そうすると、改正案の提案者が「自己の性的好奇心を満たす目的」を要件とすることによってなんらかの当罰性が具備されるのでしょうか。ここで示されている目的は、単純な行為者の内心傾向であって、対外的に個人の権利侵害またはその可能性に向けられているものとはいえないでしょう。
では、このような目的は、どのような観点から所持行為の当罰性を基礎づけるのでしょうか。刑法を学んだことがあれば、すぐにこの表現から思いつく犯罪があります。強制わいせつ罪(刑法176条)がこれです。強制わいせつ罪が成立するための要件として、最高裁判所昭和45年1月29日判決(刑集24巻1号1頁)は、「犯人の性欲を刺激興奮させまたは満足させるという性的意図のもとに行われる」ことが必要であるとし、もっぱら復讐目的で被害者の女性を裸にし、写真撮影する行為について、同罪の成立を否定しています。これに対して、多数説は、批判的であり、性的自由の侵害が存在する以上、行為者の内心傾向に関わらず、強制わいせつ罪の成立を肯定すべきであるとしています。その際、最高裁のような立場は、強制わいせつ罪を個人の性的自由に対する罪ではなく、善良な性風俗を侵害する犯罪として理解するものであるとして批判するのです。
この点と類比するならば、児童ポルノの所持等を「自己の性的好奇心を満たす目的」を要件とすることによって処罰可能であるという考え方には、児童ポルノの罪を被害者となった児童の権利侵害またはその可能性を根拠に処罰するのではなく、児童ポルノも通常のわいせつなポルノと同様に善良な風俗を害するものであって、ただ児童を対象としている分より悪質な風俗侵害があると考えているということが、その背後に存在していることがわかります。このような理解では、児童ポルノの拡散も、風俗を害するから回避すべきものでしかないこととなります。

3 このような考え方は、プロバイダ等に対する送信防止措置が努力規定にとどまることとも一貫性をもちうるでしょう。プロバイダ等は、積極的に風俗を害する意図がないから、拡散防止にそれほど積極的でなくとも問題がないと考えるからです。また、このような理解は、上記の改正案の提案者のQ&Aの答5及び答6の説明にも表れているといえます。
しかしながら、児童ポルノが児童の権利侵害またはその可能性を呼び起こすものという点を重視するのであれば、児童ポルノが拡散する状態を阻止する法的措置がまずもって講じられるべきであるといえます。刑法における現在の一般的な理解では、プロバイダは、自己の管理するサーバや掲示板に児童ポルノの存在を認識しているにもかかわらず当該情報を削除しなくとも、それだけでは刑事責任を問われるべきではないとされています。しかし、児童ポルノの認識があり、これを放置している状態は、実質的には児童ポルノの拡散に故意に寄与しているものといえ、相応の当罰性をもつと考えることも可能でしょう。現行法は、提供目的という主観的な目的での保管を処罰していますが、客観的に提供可能な状態で所持ないし保管していても、これと実質的に等価値であると評価可能です。
このように見るならば、所持行為について処罰範囲を拡張するのであれば、「自己の性的好奇心を満たす目的」という風俗犯的理解に基づく要件ではなく、客観的に提供可能状態という拡散可能性を基礎として処罰を拡張する方が望ましいといえます。また、このような犯罪化が実現されれば、少なくとも国内のプロバイダ等の削除がより実効的に実施されることも期待され、過度のブロッキングが抑制されるのみならず、ブロッキングの法的な根拠とされる緊急避難状況もより明確にその要件の存在を確認することができます。

4 もっともこのような立法によっても問題のすべてが解決されるわけではないでしょう。児童ポルノは、児童を客体としていますが、これは18歳未満という年齢によって画される概念です。したがって、児童ポルノとの認識には、被写体が18歳未満であるとの認識が必要となります。小学生程度の年齢であれば、通常、18歳未満との認識を肯定することは可能でしょうが、ハイティーンになると20歳前後の者との区別を認識することは困難です。そのため、所持罪の成立が肯定され、プロバイダの削除がなされうる児童ポルノは、被写体がせいぜい10代前半の者のものに限られることになります。これは、少なくともわが国の児童ポルノ規制の法の趣旨にそぐわないでしょう(もっとも児童ポルノの単純所持を処罰しているとされているドイツでは、児童の定義を14歳という年齢で区切っていますから、わが国の法規制は、ドイツにおける児童ポルノ規制の範囲では実効性をもちうるともいえます)。
翻って、現在のネットワークが社会基盤となっている状況に鑑みれば、かつての紙やフィルムなどが媒体の中心となっていた頃とは異なる問題も見られます。ポルノ画像・映像が電磁的記録となることによって、相当程度の長期にわたり拡散し、保有され続けられうるという点が、それです。ポルノや裸体の画像・映像は、被写体となっている人に対して、一定のスティグマ・悪評を植え付けることは、否めません。そして、ネットワーク上に一旦アップロードされ、拡散されると、長期間にわたって被写体となっている人に対するスティグマが継続することになるといえます。これは、個人の権利侵害が継続するものと評価できます。
このような前提にたつのであれば、ネットワークへのアップロードについて被写体の人物の明示的な同意がないポルノや裸体の画像・映像をアップロードする行為またはそのようなデータをネットワークで公開する行為に、一定の法的規制をなすべきであるといえましょう。具体的な線引きは、困難ですが、被写体の人物の同意がない当該データのアップロード行為を処罰する、同意が未確認なままデータを放置する行為に一定の法的処分を課す、同意がないとみられるデータについては、直ちに送信停止措置を同意が確認できるまで講じる義務を課すなどが考えられます。あるいは、もっとよい規制方法があるかもしれません。このような法規制が可能であり、実効性をもちうると、ハイティーンの児童ポルノの拡散も防止されるという副次的な効果も期待できることになります。賛否はともかく、このような法規制の是非を検討すべき時にきているのではないでしょうか。

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