第305号コラム:舟橋 信 理事(株式会社UBIC 取締役)
題:「改訂版デジタル・フォレンジック事典の出版について」

 デジタル・フォレンジック研究会は、2006年12月20日、デジタル・フォレンジックの啓発・普及を図るため、和書では国内初の専門書として「デジタル・フォレンジック事典」を日科技連出版社から出版いたしました。初版本は、発行から既に7年が経過しておりますことから、デジタル・フォレンジック研究会の設立10周年記念行事の一環といたしまして、「改訂版 デジタル・フォレンジック事典」を日科技連出版社から出版することといたしました。発売開始は4月下旬の予定です。発売につきましては、別途、事務局からご案内させていただきます。

 この度の改訂では、「第Ⅰ部 基礎偏」と、「第Ⅱ部 応用編」の2部構成といたしました。基礎編は、初学者向けにデジタル・フォレンジックの基礎的事項を取り上げております。応用編は、研究者や実務者に役立つ内容としております。付録では、2012年10月に公開されました国際規格、デジタル・フォレンジック研究会が公開しております証拠保全ガイドライン、および、デジタル・フォレンジックと近い関係にあるデータ復旧などをご紹介しております。

 また、改訂版では、この7年間のデジタル・フォレンジックに関係する法律の改正や関連技術の発展などを盛り込んでおります。

2011年6月17日にはサイバー犯罪条約に係わる国内法の整備、すなわち「情報処理の高度化等に対処するための刑法等の一部を改正する法律案」が成立いたしました。一連の法改正で、刑事訴訟法にデジタル・フォレンジックに係わる新たな条項、すなわち電磁的記録の「記録命令付差押え」などに関する条項が新たに定められたところです。また、サイバー犯罪条約は、2001年11月23日の日本政府署名から11年目を迎える2012年11月1日に国内に置いて漸く発効いたしました。

米国においては、2006年12月1日、連邦民事訴訟規則の一部が改正され、デジタルデータが情報開示、すなわちeディスカバリの対象とされ、その取り扱いに関する条項が定められました。

技術面でも大きな進展がみられました。膨大な調査対象ファイルから事案に関係するファイルを振り分ける、いわゆる閲覧(Review)において、従来、多くの人手と期間、すなわちeディスカバリのプロセスの中で最も多くの費用が掛かっていた処理を、人工知能を用いたプレディクティブ・コーディング(Predictive Coding)技術を用いることにより、工数が大幅に削減されるなど、デジタル・フォレンジックは、飛躍的な発展を遂げております。

 また、近年は、標的型攻撃による情報流出事案が多発するなど、サイバー攻撃が激化して来ておりますが、インシデントに的確に対処するため、ネットワーク・フォレンジックの重要性がますます重要になって参りました。

 このような状況下におきまして、「改訂版 デジタル・フォレンジック事典」を出版いたしますのは時宜にかなったものと思います。会員の皆様には、是非お求めいただければ幸いでございます。

【著作権は舟橋氏に属します】