第306号コラム:佐々木 良一 会長(東京電機大学 未来科学部 情報メディア学科 教授)
題:「2014年度の研究会活動に向けて」

この4月からデジタル・フォレンジック研究会の活動も第11期となります。10期では10周年記念ということで、通常の活動に加え、次のような活動を実施してきました。

(1)「改訂版デジタル・フォレンジック事典」の出版(2014年4月下旬発刊予定)
(2)10周年記念式典の実施(2013年8月23日)
(3)功労者表彰の実施(2013年8月23日)

デジタル・フォレンジック研究会のこのような活動は世間の注目を浴びるようになっていき、2013年のデジタル・フォレンジック・コミュニティの参加者は328人を数えるまでになっていきました。また、デジタル・フォレンジックという言葉は、広く使われるようになり、一般のセキュリティ技術者が「フォレンジックする」というようなことを言うようになってきています。遠隔操作ウイルス事件の法廷でも「ファイルスラック領域」のようなデジタル・フォレンジックの専門用語が飛び交うようになっています。NISCのセキュリティ技術戦略の中にも重要技術の1つとしてしっかり位置づけられています。したがって、デジタル・フォレンジック研究会の重要性もますます増大していくとも考えられます。

一方で、デジタル・フォレンジックの普及に伴い、従来のデジタル・フォレンジック技術が今後、コモディティ化していくだろうとも思っています。そのためデジタル・フォレンジック技術が特別のことではなくなり、みんなが使う一般の技術になっていき、製品を適用すればよいという形になって強い関心を持たれなくなっていく可能性もあります。したがって、デジタル・フォレンジック研究会が従来と同じ活動をしていたのではその存在意義が失われていく可能性があります。

以前にも書きましたが、学会や研究会の意義は、大きく、①世の中のためになる活動を行うことと、②学会員や研究会員のためになる活動を実施していくことがあると思います。より重要性の高い前者に対しては、今後、次のような活動が重要になると考えています。

(1)よりよい次世代技術や製品の提供
(2)製品品質の保証
(3)デジタル・フォレンジック人材の提供

このうち(1)を実現する上での問題は、残念ながら、日本のデジタル・フォレンジック研究者人口は米国などに比べ圧倒的に不足しており、質的なレベルも十分高いとはいえない点です。日本のセキュリティ研究者だけでなく多くのIT技術研究者にデジタル・フォレンジックにもっと興味を持ってもらうため、2014年の7月22-25日にスエーデンで実施される情報処理に関する最大規模の国際会議の1つであるCOMPSAC2014(The 38th Annual International Computer Software & Applications Conference)の中でワークショップCFSE 2014:(The 6th IEEE International Workshop on Computer Forensics in Software Engineering)を開催したり、2015年3月の情報処理学会全国大会での、デジタル・フォレンジックのパネルを企画しています。また、年頭のあいさつでも紹介しましたが、標的型攻撃に対応するため、今後、ネットワーク・フォレンジックのインテリジェント化が必要という思いから、東京電機大学のサイバーセキュリティ研究所の中にLIFT(Live and Intelligent Network Forensic Technologies)プロジェクトを発足させ、国内トップレベルの研究者に集まっていただき共同研究を行っています。このような活動を産学の協力を強化しながら続けていきたいと考えています。

(2)の製品品質の保証を行うために、研究会ができることの1つに、製品の機能評価を行うことがあると考えております。その第一歩として、eディスカバリー等における日本語処理の機能の評価を行うため、産学の専門家を中心とする「日本語処理解析評価WG」を今期から立ち上げることになっています。

(3)のデジタル・フォレンジック人材の提供は、警察などの捜査機関だけではなく民間の組織などでも必要性が高まっていると考えています。このため、教育カリキュラムの充実と適切な実施が必要になると思います。そこで、まず、技術マップの作成と教育カリキュラムの検討をスタートしたいと考えています。

詰め切れていないことも多く、試行錯誤の部分も多いと思いますが、関係者の皆様の積極的参加を期待しています。

2014年4月5日

【著作権は佐々木氏に属します】