第496号コラム:安冨 潔 会長
(京都産業大学 法務研究科 客員教授・法教育総合センター長、慶應義塾大学 名誉教授、弁護士)
題:「年頭挨拶」

よき新春をお迎えのこととお慶び申し上げます。デジタル・フォレンジック研究会も本年8月に創立15周年を迎えます。これまで当研究会へ積極的にご参加いただきました会員のみなさま及びさまざまなご支援をいただきました法人・団体などにまずは厚く御礼申し上げます。

さて、今日の社会においては、情報システム及び情報通信ネットワークの普及により、地球的規模で「インターネット」というひとつの空間が構築されています。この空間では、サイバー社会というこれまでにない社会が形成されています。サイバー社会には国家主権に基づく国境はなく、また固有の法が適用される法域はありません。しかし、それゆえに、サイバー社会が、人々にとって不可侵の「聖域(sanctuary)」となってはなりません。サイバー空間が現実空間と連接することで、サイバー社会もまた現実社会とつながっているととらえるべきではないでしょうか。サイバー社会においても、サイバー犯罪などにより個人の権利・利益が侵害されることはあってはならないでしょう。また、サイバー攻撃により市民生活に不可欠な重要インフラストラクチャーが毀損されてはならないのはいうまでもありません。

これから情報システム及び情報ネットワークがいっそう進展し、さまざまなモノがネットワークでつながり、大量の情報が収集・蓄積・利用されて、人工知能による情報処理が普及していくことは想像に難くありません。そして、それにともなって現実社会の利便性が高まることにもなるでしょう。しかし、情報システム及び情報ネットワークに無謬はありません。可能な限りの安全対策を施した情報システム及び情報ネットワークが実装されることが求められます。

そのためにもサイバーセキュリティの確保は安全・安心なサイバー社会を築くうえで不可欠の課題であり、デジタル・フォレンジックが重要な機能を果たすものといえるでしょう。

本年も、みなさまのご協力をいただき当研究会の諸活動を通じてデジタル・フォレンジックの深化をすすめてまいりたいと考えています。

【著作権は、安冨氏に属します】