第505号コラム:舟橋 信 理事
(株式会社FRONTEO 取締役、株式会社セキュリティ工学研究所 取締役)
題:「体感治安について」

ある会合での講演をきっかけに、地域における治安情勢と体感治安について調べてみたところ、刑法犯認知件数などの減少が、必ずしも地域の体感治安の低下や個人の犯罪被害に対する不安感払拭につながっていないことが分かった。

警察白書の犯罪統計をみると、我が国の刑法犯認知件数は、街頭犯罪や侵入犯罪の急激な増加等により、平成8年から7年連続で戦後最多を更新し、平成14年には約285万件に達した。その後、平成15年1月1日を始期とする「街頭犯罪・侵入犯罪の発生を抑止するための総合対策」や平成15年8月に策定された「緊急治安対策プログラム」などの警察庁の施策により、その後14年連続で減少し、平成28年には、刑法犯認知件数は約99万6千件と戦後最少を記録するに至った。

しかし、平成29年9月に内閣府により実施された「治安に関する世論調査」結果をみると、「最近の治安に関する認識」に関する質問(あなたは、 ここ10年間で日本の治安はよくなったと思いますか。 それとも、 悪くなったと思いますか。)では、「悪くなったと思う」が、60.8%(81.1%)を占めており、刑法犯認知件数の統計数値が示している治安情勢との乖離がみられる。なお、「よくなったと思う」は、35.5%(15.8%)であった(注:カッコ内は、前回、平成24年7月の調査結果)。実際の統計数値ほどには、地域において体感治安がよいと感じられないこと、或いは、個人の犯罪に対する不安感が影響しているものと思われる。

(公財)日工組社会安全研究財団2013年度研究助成により守山(※1)らが行った研究では、地域の体感治安や個人の不安感には、侵入盗などの犯罪だけではなく、「空き家・空き店舗」、「暗い街灯」、「さびれた商店街」、「若者の蝟集」など、物理的無秩序や社会的無秩序が不安感を与えている。また、「住民による地域パトロール」、「警察官のパトロール」、「地域の紐帯」などは、不安感を低減する要因となっている。加えて、個人の不安感には、「不安になりやすい」と言うパーソナリティと、「犯罪被害経験」の影響が大きい。

同研究で行われた住民に対するインタビュー調査において、防犯カメラ設置による安心感の向上がみられるが、防犯カメラ設置の効果については、深谷(2017)により大阪市を対象として分析が行われている(※2)。住宅関連窃盗では、防犯カメラを設置した町丁目においては犯罪が減少したが、周辺町丁目では犯罪が多くなる地理的転移が生じている。路上窃盗では、設置町丁目や周辺町丁目でも犯罪を減少させる効果がみられた。

地域の体感治安をよくするためには、街灯を明るくすることや防犯カメラの設置などによる環境整備を行うほか、「市民活動が活発な都道府県では、刑法犯認知件数が少ない」、「地域内活動・地域間活動の活発な地域の住民は、防犯活動に積極的に取り組んでいる」などの知見もあり(※3)、地域の住民活動の活性化も課題である。

※1 「公的犯罪統計と体感治安の乖離に関する日英比較研究」
(公財)日工組社会安全研究財団2013年度共同研究助成最終報告書、守山正ほか

※2 「防犯カメラの設置による窃盗犯罪の抑止効果について ―大阪市を事例として―」
政策研究大学院大学 まちづくりプログラム、深谷昌代、2017年

※3 「ソーシャル・キャピタルの形成と犯罪防止に関する研究」
広島県警での講演資料、浦光博、2011年

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