「デジタル・フォレンジック優秀若手研究」は、デジタル・フォレンジック研究の活性化を目的として、デジタル・フォレンジックに関する優れた若手研究者を表彰するために、前期(第14期)初めて設けられ、デジタル・フォレンジック・コミュニティの場で表彰式を実施致しました。
受賞された皆様にお祝い申し上げ、益々のDF研究の深化と拡大を期待致します。

最優秀賞:
西貝 吉晃 様(日本大学 法学部)
「コンピュータ・データへの無権限アクセスと刑事罰」
(受賞理由)
西貝氏の本研究は、情報セキュリティのうちコンピュータ・データの機密性の保護に焦点をあて、情報、データ等の定義論、情報セキュリティ及びサイバーセキュリティの議論との調和を意識しつつ、英米豪の英語圏及び独墺瑞のドイツ語圏の立法及び解釈論上の議論を丹念に分析し、これらの比較法研究をふまえて、わが国におけるコンピュータ・データの機密性を保護する規制のあり方を立法論的に考察したものである。そこでは、不正アクセス禁止法がコンピュータ・データの機密性の保護という点で不十分であり、データの保護に特化した新たな立法の必要性を具体的な法文例を示しつつ提案しており、今後のサイバーセキュリティに関する刑事法の展開に大きな貢献をなすものである。

優秀賞:
松高 直輝 様(日本電気株式会社 執筆時:東京電機大学)
「シャドウコピーを利用したファイル管理システムの提案と評価」
(受賞理由)
本研究は、SSD(Solid State Drive)の普及が進み、PCなどのユーザが一度ファイルを誤って削除してしまうと二度と復元できなくなったり、デジタル・フォレンジックの専門家が不正の証拠を確保するのが困難になったりするという新しい課題を先行的に扱うものである。本研究では、ボリュームシャドウコピーによるバックアップを前提とし、①一般のユーザでも容易にボリュームシャドウコピーの設定やデータ復元できるようにするとともに、②ランサムウエアが、ボリュームシャドウコピーを不正消去するのを防ぐ機能や、③企業内のユーザが自分の都合の悪い情報をシャドウコピーから勝手に消去するのを防ぐ機能を持つファイル管理システムを提案している。併せて、①、②の機能を実現するプロトタイププログラムを開発し、実験と評価を行うことにより、一般ユーザでも十分使い勝手がよく、現状のランサムウエアに攻撃耐性があることを確認している。以上のように本研究は、デジタル・フォレンジックに関し、新規性と有用性を併せ持つものである。

炭矢 瑠奈 様(NTTコミュニケーションズ株式会社 執筆時:中央大学大学院)
「真贋判定可能な独創的AI手法による微細な表情認識の研究」
(受賞理由)
炭矢氏は、大学院在学中リーマン幾何学を用いた革新的なAI手法による表情認識を研究され、対象論文は国際会議で高い評価を受け、今年7月先端技術大賞「ニッポン放送賞」を高円宮久子殿下ご臨席の授賞式で、受賞された。 現在主流の深層学習によるAIでは、喜怒哀楽しか、表情カテゴリに分類して認識出来ないが、炭矢氏達が進めている、リーマン多様体学習の手法では、細やかな深い表情を認識出来るため、遠隔医療・介護や犯罪捜査への適用が期待されている。また、現在のAIで深刻な課題になっているのが、敵対学習の悪用である。ブラックボックスである深層学習によるAIでは、とんでもない誤認識を起こす可能性があり、これを悪用されると、冤罪など真贋判定にとって酷いことになりうる。これに対し、炭矢氏によるリーマン多様体学習は、データをリーマン空間の幾何学構造として解明しているためこのような誤りは起きない。つまり、真贋判定にとって、本質的に有効なAI手法として期待される。真贋判定のための総合科学としてのデジタル・フォンレジックには、重要な意味を持つと判断する。

Songpon Teerakanok 様(立命館大学大学院 情報理工学研究科)
「Enhancement of Media Splicing Detection: A General Framework」
(受賞理由)
法的係争の場で扱われる電磁的証拠には、多くの画像や音声のデータが含まれる。これらのデータは編集が比較的容易であるため、常に改ざんの危険に晒されている。Teerakanok氏は、不正調査にあたる警察官などがデジタル画像についての特別な知識を持たない場合においても、改ざんの可能性が高い部位を自動的に提示するようなツールの開発を行っている。推薦対象とした論文においては、画像改ざんのうち切り貼りを行った部分を検出する各技法について幅広いサーベイを行った上で、複数の技法を組み合わせて改ざん部分をより正確に検出するための一般的枠組みについて提案している。具体的には2つの手法からそれぞれ得られた改ざん可能性に関する特徴量を正規化したうえで、ピアソンの相関係数や2次元ベクトル積を求めることで各特徴量が補完しあい、容易に改ざん部分が識別できることを見出した。さらに同手法を音声データにも適用することで、音声データの編集点を見出すことができることも示した。この技法は汎用性が極めて高く、かつ有用である。

木下 盾 様(株式会社NTTデータ 執筆時:立命館大学大学院)
「結託耐性符号を用いた名簿システムの分割攻撃への対応」
(受賞理由)
多くの企業が扱う顧客個人情報は事業活動のためには不可欠のものだが、同時に安全管理の責任が求められる。利活用可能な状態での漏洩対策として従業員ごとにパターンを変えて名簿へダミーの個人情報を埋め込む手法がある。しかし、この手法は結託攻撃に脆弱であるため、結託耐性符号の利用が必要である。木下氏の研究は、この結託耐性符号を用いた名簿データへのダミー個人情報埋め込み手法においても、さらに分割攻撃と呼ぶ攻撃が可能であることを示し、その対策として符号に冗長ビットを加えることで、名簿データをむやみに増大させることなくある程度の分割耐性を持たせることができることを示した。さらに分割攻撃への耐性に関する指標を提案し、具体的な名簿データにおいて冗長なダミー個人情報の量と分割攻撃耐性との関係について示した。本研究は名簿の利活用への悪影響を抑えたうえで持ち出しといった内部犯行への抑止になりうる効果的な手法を示したものである。