第553号コラム:守本 正宏 理事(株式会社FRONTEO 代表取締役社長)
題:「AI・人工知能による自然言語処理技術を活用したオープンソースインテリジェンス(OSINT)について」
昨今、多くの企業が中期経営計画などで、技術基盤の強化とイノベーションの施策としてアナリティクス、人工知能、IoTの活用を打ち出しています。なかには、人工知能による自然言語処理を活用してマーケティングの高度化の実現を目指すといった取り組みもみられます。本コラムではその一つを事例としてご紹介いたします。
ある企業では、自社の事業ドメインに関する業界トレンドや有用な情報を把握するため、各種ニュースサイトより記事を集め、調査レポートをまとめて経営層に提出しています。例えば、エネルギー・環境、交通・輸送、新技術など同社が重点を置くテーマに関する情報を、世界のニュースメディアからRSSリーダーで収集し、調査チームのマーケターが1件1件内容を把握しながら記事をピックアップ、その情報をさらに100件程度まで絞り込み、最終的にマーケティング本部の会議で精査してレポート作成するという作業をしています。
参考にするニュースメディアは、国内外あわせて約100サイト、週に数千件の記事を一人の熟練マーケターが1件1件読み込むことで収集していましたが、調査レポートの網羅性を高めるために、ニュースの取得範囲を拡大することを検討していました。しかし、熟練マーケターのノウハウに依存して記事収集を行っていたこれまでの方法では、情報の仕分け作業が追いつかないこと、他の新人マーケターが熟練マーケターと同じ精度で作業をすることが難しいといった課題があり、これがニュースの取得範囲を拡大させるための障害となっていました。
そこで同社は、人工知能を活用し情報を抽出するという手法を採用しました。人工知能が情報を仕分けすることで省力化が大幅に進み、マーケターは新しい分野の掘り起こしや人工知能が分類したテーマに付加価値を加えることに注力できるようになりました。人と人工知能がお互いを補完しあうことによって、業務効率化とレポートの質の向上が同時に実現することになったのです。
これは、人工知能による自然言語処理技術を活用したオープンソースインテリジェンスの成功事例だと考えています。
また、同技術は、安全保障分野においても活用が検討されています。当研究会の第523号コラム で私がご紹介した機微情報流出に関する施策です。
武器、あるいは、民生品であっても大量破壊兵器などに転用できる物に関する機微技術の流出は、国家安全保障に甚大な影響を与え得ます。機微技術は、現在、国際レジームの中で管理されており、各国は、それに適した国内法制度を整備して運用しています。
昨今、この機微技術情報をM&Aによって取得しようとしている国も出てきており、EUやアメリカではすでにこのような動きを察知して、対象国の資本を規制する法整備を加速させています。外国資本によるEU企業へのM&Aの件数は、2016年では309件で、投資額が858億ドルと過去4年間の総額を超えていると言われており(※)、EUは、投資元となる企業が所在国政府により背後でコントロールされている可能性があるとして、各国の買収案を詳細に調査し、場合によっては買収案を中止させるなど警戒を強めています。
我が国もこのような動きに反応して、欧米各機関と情報交換をしながら同様の対応をしようとしているようですが、すべてのM&Aを完全に分析することは、リソースや時間の関係から現実的ではなく、さらにすべてのM&Aや投資案件が安全保障上の問題があるものではないので、問題がある可能性が高いものを選別して分析していく必要があります。
そのため、日本においてもオープンソースや世界情勢の中から注目すべき情報を抽出して分析する能力の活用研究も始まっています。
こうした背景から、今後は、安全保障上やビジネス上での情報分析のために、AI×自然言語処理技術を活用したOSINT能力の向上が重要になってくるでしょう。
※メルカトル中国研究所(MERICS)2017年9月発表による
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