第523号コラム:守本 正宏 理事(株式会社FRONTEO 代表取締役社長)

題:「機微技術流出の危険性と、日本が取るべき対策とは」

武器、あるいは、民生品であっても大量破壊兵器などに転用できる物に関する機微技術の流出は、国家安全保障に甚大な影響を与え得ます。機微技術は、現在、国際レジームの中で管理されており、各国は、それに適した国内法制度を整備して運用しています。

昨今、この機微技術情報をM&Aによって取得しようとしている国も出てきており、EUやアメリカではすでにこのような動きを察知して、対象国の資本を規制する法整備を加速させています。

外国資本によるEU企業へのM&Aの件数は、2016年では309件で、投資額が858億ドルと過去4年間の総額を超えていると言われており(※)、EUは、投資元となる企業が所在国政府により背後でコントロールされている可能性があるとして、各国の買収案を詳細に調査し、場合によっては買収案を中止させるなど警戒を強めています。

我が国もこのような動きに反応して、欧米各機関と情報交換をしながら同様の対応をしようとしているようですが、機微技術情報の流出は、通常のM&Aでだけ起こるものではないため、注意が必要です。

通常のM&Aでは、被買収企業にとっても選択肢が複数あるため、明らかに裏があるような買収提案は防ぐことが可能だといえますが、訴訟による圧力や、不祥事などに付け込まれ、弱体化させられてからのM&Aの提案は違います。被買収企業にとって選択肢がより少なくなり、本国政府からの援助などが得られない場合、提案を拒否することは難しくなるのです。

また、海外資本による買収だけではなく、日本企業同士の統合や日米の企業統合においても、同様に機微技術流出の危険性は潜んでいます。市場独占意志の有無を確認する各国の独禁当局の調査に応じなければならず、その際には、かなりの情報を当局に提出しなければならないからです。

しかし、このようなM&Aや独禁対応のための法的手続きに伴う機微技術情報の漏えいは、高度な技術を必要とするハッカーなどによる情報流出に比較して非常に地味で、そのリスクを認識している専門家の数は多くありません。そもそも、独禁当局調査対応や不祥事による司法省調査対応でどのような情報を求められるかは意外と知られておらず、提出した情報をその後誰がどのように処理しているのかも認識されていないことがほとんどです。

また実際に当局などに提出するデータは、少しでも早く当局や買収相手にレビューしてもらえるように、データ整理・仕訳がされており、閲覧のための専用のオンラインレビューシステムも活用されています。オンラインのため、認証された人は世界中からアクセスし閲覧することが可能です。

結果的に、それは非常に整理されたデータベースとなり、わざわざM&Aまで実行しなくても、これらの合法的方法で、いとも簡単に情報が取得できてしまうのです。

情報を守るためには、少しの穴も命取りになります。

日本でも、営業秘密の海外流出を阻止すべく、外為法の実効性を高める改正が進められてはいますが、これらの法的手続きの前では今のところなすすべがありません。

強大な軍事力・経済力を背景に情報を絶対に外に出さないアメリカ、GDPRのような個人情報保護指令をディスカバリなどにも有効に利用するEUなど、欧米がそれぞれの対策を講じる中、日本が取るべき道は何なのか。

訴訟支援や不正調査支援を通じて日本企業が置かれている実態をよく理解し、我が国における一日でも早い対策の構築を期待したいと思います。

※メルカトル中国研究所(MERICS)2017年9月発表による

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