第635号コラム:西川 徹矢 理事(笠原総合法律事務所 弁護士)
題:「コロナ禍からのサイバー分野の飛躍に期待して」

本年も既に三分の二を過ぎた。年初からコロナウイルス禍の不気味な暗雲が、不穏な気配を漂わせ、日を追うに就け世界中に深く垂れ込めてきた。

ウイルスは中国の武漢市で発現し広まったと言うが、必ずしも中国はスンナリとは認めない。ここ数年、中国が米国を睨み世界各地で仕掛けてきた「覇権を巡る」不穏な動きに、恰も「相乗する」がごとく、瞬く間に世界に蔓延した。感染の勢いは、今も衰えることを知らず、各国で蔓延しており、国によっては、そのヤマ場を越えそうに見えながらも、第二波となって広がり混乱に輪をかけている。

世界の多くの研究者が懸命の努力を払っているにも拘わらず、未だ決定的な治療薬や治療法はない。人々は出口の見えない恐怖に駆られ、悪霊に魅入られたごとく底知れぬ不安に慄いている。また、この間、米国大統領選挙や国際安全保障会合等の様々な局面で議論が沸く中で、コロナ禍蔓延の長期化が世界経済に予想以上に大きくかつ深刻な影響があることが判明し、各国とも重複する難課題に取り組んでいる。

我が国においても、東京オリンピック・パラリンピックの開催延期やコロナ禍の緊急事態宣言等に対処する中で、9月に入り、健康上の理由で、突然、為政者の交替があり、「実力派」の菅新政権が成立した。無論、この間にも、世界情勢は米中覇権争いの様相を一段と深め、急速で複雑な変革の道は、何れの国にとっても、それぞれに国家運営の難しさを増している。

ただ、世界情勢がいかに複雑で、深刻なものになろうとも、人類はそれぞれ国の立場で、現実を直視し、その試練を受け容れ、国際社会の一員として、止むことなく営々と現実的対応策を模索しながら、日常の営みを行う他ない。

我が国政府も、このコロナ禍の中で、殃禍に翻弄されながらも、各分野に広く手を尽くし、ウィズコロナあるいはアフターコロナを多面的に睨みながら多様な重点対応施策を打ち出して、全力を挙げて、この局面を乗り切ろうとしている。我らの正面であるIT-サイバーの分野においては、①行政のIT化の促進、②テレワークの普及推進、③小中学校等におけるIT化授業の推進等々日常の生活様式に大幅な変革をもたらす施策が次々と取り沙汰されてきている。

しかし、施策の中には、現実の運用面でサイバーセキュリティ等の宿因とも言い得る課題を抱えたまま、ここ10数年間普及の声が掛かりながらスタック観の消えないものも散見される。また、この非常事態下で、手っ取り早く、究極の現状打開策と銘打って、言わば、「安全上黄信号の点灯したまま」の施策で改めて最前線に押し出された観のものもある。それ故、当初は大方の支持の下、社会に受け容れられたかのようなものもあったが、その後大企業等における導入の失敗事例や実施に伴って問題視された心身面への悪影響等が報道されるなど様々な疑念や懸念が指摘されたものもある。

ところが、ここに来て、この政権交代を機に、新政権への期待や、また、これまでの行政サイドの反省も踏まえ、早々にデジタル事業分野の最大課題の一つでもあった「デジタル行政庁の一本化」を図ろうとする大英断が決心され、新しい時代への大きな第一歩が踏み出されることとなった。構想の細部は未だ詳らかにされていないが、次の通常国会での成立を目指すという決意が公表され、早速担当グループが招集され休日返上で始動した。また、漏れ伝わる関連情報やこれまでの政府や業界筋における取組等から推測すると、上述の三大重点を中心に数多くの事項について行政の根幹にまで及ぶ、かなり大胆な改革が行われるのではないかとの情報もあり、大いに期待するところである。

因みに、我が国では、かつて二十一世紀の幕開けを迎えるに当たり、「世界的な課題」とされた「2000年問題」に国を挙げて取り組み、見事にクリアーしたことがある。しかし、残念なことに、成功を報告する記者会見を終えて1か月も経たない頃、その大成果を嘲笑うかのように、我が国の中央省庁数カ所のホームページが何者かによって立て続けにハッキングされ、数日間混乱したことがあった。正に、足下の脆弱性が白日に晒されたような気分で不愉快さの募るものであった。当然、このような失態はあってはならないことではあるが、得てして、大事を為す時には、気の及ばないところがあり、このようなことが間々ある。

また、この事件には笑えない別の後日談がある。それは、このハッキングが契機となって、多数の官公庁や大手企業等が、ホームページのセキュリティ対策を充実するべく緊急の大量集中発注を行った。しかし、このような事態も予想外のことであったため人材的にも、時間的にも余裕がなくその実施に手が回らず、十分な措置が採れないままに、資器材の調達等に追い込まれざるを得なかった。その結果、ベンチマークテストや有効性確認を十二分に行い切れないまま設置納入作業に入ったため、一部にトラブルがあったやに聞いている。「画竜点睛を欠く」とまでは言わないが、この時の後味の悪さが今でも残る。

いずれにせよ、前述したように、我々は、人類不可避の如何なる試練にも生き延びて行かねばならないのである。したがって、たとえ些かでもその種試練の発生兆候が窺われる場合には、万全の備えの一環として、英知を集めて、積極的に情報や意見の交換の機会を持ち、万が一の場面でも取り返しのつかない害悪や危険については絶無を期す努力と覚悟を持って、乗り越えていただきたい。

今回のデジタル庁等の一連の政策は、この20年間に躍進したITの普及や社会のIT依存度等の現状を根底から変革する大改革になり得るものと思われるし、何よりもそうあることを期待する。

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